十八話:河川敷の決闘
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その強靭な精神……騎士として仕えたいとすら思いますよ」
『……違う』
自分からの賛辞の言葉を否定するぐだ男に一瞬動きを止めるジル。
その間にもぐだ男は死人のように足を引きずりながら近づいてくる。
そして、首を上げるのもやっとの体に鞭を打ち、顔を上げてジルを睨み付ける。
今まで下げられていた彼の瞳を目にし、ジルは言葉を失う。
彼の瞳は恐怖で震えていた。痛みによる反射で涙が流れていた。
だというのに、その奥には―――炎が宿っていた。
『俺はそんな高尚な人間じゃない……。怖いのは嫌だし、痛いのも嫌だッ!
でも―――ジャンヌに会えなくなるのはもっと嫌だッ!!』
彼は勇者でもなければ、英雄でもないし、正義の味方でもない。
どこまでも普通の人間だ。人を傷つけず、人を思いやれる優しい普通の人間。
そのような強くない人間が必死に勇気を振り絞って不可能という名の怪物に挑んでいる。
一人の少女のために、己の全存在を賭けて立ち向かう様は、ただひたすらに―――美しかった。
『おぉおおおッ!!』
「くっ…!」
ぐだ男の在り方に見惚れていたために彼の攻撃に反応するのが遅れる。
咄嗟に体が動いて、後数ミリの距離で相手を吹き飛ばすことに成功する。
しかし、ジルの心は晴れなかった。
寧ろ、今の一撃を受けてやるべきだったとすら思っていた。
それほどまでにジルは彼のことを心から認めてしまったのだ。
「2人ともやめてください!!」
なおも立ち上がろうともがくぐだ男とそれを見つめるジルの間に突如、少女が割り込んでくる。
息を切らし金色の髪を揺らしながら少女、ジャンヌは顔を上げる。
「帰り道に物音がしているから来てみれば……何をしているんですか?」
「あ、その、これはですね……」
明らかに怒っていますという彼女には珍しい声色で睨み付けてくる娘にジルは困り顔をする。
男同士の戦いを女性に説明するのは非常に難しいのだ。
『一太刀入れられなかったらジャンヌともう会うなって言われて……』
「………お父さん?」
ぐだ男からの手短な経緯の説明を聞いたことで冷たい空気を醸し出すジャンヌ。
底冷えのする声で呼ばれたジルの方は戦闘の影響とは別の汗を背中に流す。
「どうして知っているのかは置いておくとして、私とぐだ男君の問題はお父さんには関係ありません!」
「そ、そうは言ってもですね」
「私がぐだ男君の傍に居るか居ないかは私の意思が決めます! それにぐだ男君をこんなにも傷つけて…ッ。……流石の私も怒りますよ?」
ぐだ男の青あざだらけの体を悲しげに見つめ、ジルには怒りの視線を向けるジャンヌ。
その姿にジルは驚きながらも内心で
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