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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十二話 誘拐
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訝しげな表情をした。
「ラムスドルフは自ら誘拐犯を追っていたのだが、捜査は部下に任せて一度報告に戻るように命じた」

「よろしいのですか、ラムスドルフ近衛兵総監が捜査から外れれば、捜査はおざなりになりかねませんが」
「……」

エーレンベルク元帥が眉を寄せながらリヒテンラーデ侯に問いかけたが侯は答えなかった。見つけるのは無理だと思っているのかもしれない。エーレンベルク元帥もそれ以上は何も言わなかった。沈黙のまま時間が過ぎる。ラムスドルフ近衛兵総監が現れたのは十分ほど後のことだった。

憔悴したラムスドルフ近衛兵総監が口を開こうとするとリヒテンラーデ侯がそれを止めた。
「これより陛下の元へいく。捜査の状況はそこで聞こう、それとも今此処で話さなければならぬことが有るか?」
「……いえ、ございませぬ」

「リヒテンラーデ侯、装甲擲弾兵を護衛に付けましょう」
歩き出そうとしたリヒテンラーデ侯は俺の言葉に顔を顰めた。近衛は当てにならない、この場で俺達を暗殺しようと思えばそれほど難しくは無い、危険だ。エーレンベルク、シュタインホフ元帥が厳しい視線を向けてくるのが分かったが気にしては居られなかった。

「閣下、ヴァレンシュタイン元帥の言うとおりです。装甲擲弾兵を護衛に付けてください」
俺の意見を支持したのはラムスドルフ近衛兵総監だった。彼の声には苦い響きが有る、認めたくないことを認める苦さが滲み出ていた。

リヒテンラーデ侯はラムスドルフ近衛兵総監を見、俺を見ると僅かに頷き歩き出した。俺はリューネブルクを見た。リューネブルクは装甲擲弾兵を三十人ほど俺達の護衛に付けると自ら指揮を執った。

新無憂宮を完全武装の装甲擲弾兵に護られた俺達が歩く。時折宮中に勤める女官や廷臣達が怯えるかのようにこちらを見るのが分かった。宮中を装甲擲弾兵が闊歩するなど有り得ないことだ。恐ろしいのだろう。

フリードリヒ四世の元に赴くと、皇帝はクリスティーネ、アマーリエの二人に娘を助けてくれとせがまれている所だった。かなり往生していたのだろう、俺達を見るとほっとしたように声をかけてきた。

「おお、皆来たか。それで、どうなった?」
皆片膝をついて控えた。ラムスドルフ上級大将が顔を歪めながら答える。
「残念では有りますが賊を取り逃がしました、申し訳ございませぬ」

「なんと、そなたは宮中警備の責任者であろう。賊を取り逃がしたなど、それでもそなた、近衛兵総監か! この役立たずが!」
罵声を浴びせたのはリッテンハイム侯爵夫人クリスティーネだった。その声にラムスドルフの顔がさらに歪む。

「もとより責めを逃れるつもりはありませぬ。覚悟は致しております」
覚悟か、原作のモルトと同じように死ぬつもりか……。全くなんだってそう死にたがるのか。


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