第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#21
DARK BLUE MOONXIII 〜D・A・H・L・I・A〜
[13/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、汗と泥に塗れながらアノ娘へと近づいた。
ゆっくりと狭まる距離が、発狂するほどにもどかしい。
荒れた大地に散乱した石と砂利で、娼館着が裂け皮膚が破れて血を噴いた。
何も出来ない、こうする以外何も無い、絶望的な無力感に視界が滲んだ。
渇きにも似た慟哭が胸を張り裂いた。
(“神様” ……お願い……)
腕を紅く染める血と共に草むらを掻き分けながら、自分は、
一度も祈った事のない、存在すら否定していた者に、
生まれて初めて心の底から祈った。
(私は……どうなっても良い……だから……この娘は……この娘だけは……)
月明かりに照らされ白く染まる、血の気の失せた顔が眼に入った。
(お願い……神様……お願いよ……ッ!)
透明な熱い雫が、幾筋も頬を伝った。
(ルルゥを……連れて行かないで……殺さないで……お願い……お願いだから……!)
幸せに、ならなきゃいけないの。
いつも、笑っていて欲しいの。
血と泥に塗れた震える手が、ようやく少女の肩に触れた。
そのまま強く、傷ついた躰を抱き寄せる。
もう決して離さないように。
絶対誰にも渡さないように。
「ルルゥ……」
力無く自分にもたれかかる彼女に、全身に感じる温もりに、
どうしようもない愛しさを感じた。
「ルル……ゥ……」
こんなにも優しく温かな存在が、自分の腕の中にあるなんて信じられなかった。
このまま時が、止まってしまえば良い。
明日なんて、永遠に来なければ良い。
そうすれば、ずっと、一緒にいられる。
このまま二人で、ずっと、ずっと……
紅く染まった娼館着に彼女の顔に、途切れる事なく涙が落ちた。
「マー……姉……サマ……」
閉じていた瞳を薄く開き、気流に霧散するような声で彼女が自分を見上げた。
「いる……の……? ど……こ……? 視え……ない……」
損傷と同時に止血の役割も果たしていた木の破片が外れ血を流し過ぎたのか、
虚ろな瞳で彼女は手を宙に彷徨わせた。
「大……丈夫……ここに……いる……」
柔らかな手をそっと握り、出来るだけ穏やかな声で告げた。
「どこにも……行かないわ……ルルゥ……」
でも涙は、止まらなかった。止められなかった。
「……」
自分の手を弱く握り返し、彼女は安らかな微笑みを浮かべた。
全てを覚り、全てを受け入れた、そんな儚く美しい表情で。
「マー……姉サマ……ルルゥ……ね……“幸せ”……だった……よ……」
もう映らない瞳で自分を見つめながら、少女は優しい声でそう囁いた。
「辛い……事……哀しい……事……いっぱい……あった……けど……
でも……最後に……マー……姉サマ……に……逢えた……から……」
息が詰まって声が出なかった。
ただ、何度も何度も首を振った。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ