親愛と定めに抗いて
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る視線は甘いモノでは無く、チクリと痛んだ胸に気付かない振りをしてじっと見つめ続けた。
「どうした……?」
答えない。質問をするのはこちらだと、彼女は大きく深呼吸を一つ。
寝ころんだままの彼の身体に――普段の詠なら絶対にしないが――跨いで乗っかった。
彼は何も言わなかった。冗談の一つでも飛ばすところであるのに。
「……ねぇ」
ゆっくりと頬に両手を添えて、彼の黒瞳に沈み込む。
あの時の絶望はもう無い。今の彼は黒麒麟では無い。安堵する自分と落胆する自分、二つが交錯して哀しくなった。
聞かなければならないことがある。聞いておきたい事があった。
このバカでどうしようもない……いつか消えてしまいそうな男に。
「秋斗は……死ぬのが怖くないの?」
それは誰も聞かなかった質問。
命を投げ捨てて使い捨てる戦い方をする彼に対して、徐晃隊でさえ聞くことは無かった。
詠はそれを当然と思って欲しくなかった。
死が隣にあるモノと、いつでも死を享受して生きて欲しくは無かった。
幸せに生きる為には、生きたいと思わなければならない。
心の底から生きたいと思って、自分から死を遠ざけるべきなのだ。
――あんたは……人として壊れてる。
彼は死ぬことに対して人とは違う感覚を持っているのだと、詠は分かっていた。
壊れている、と誰かが評価した。それはきっと正しいこと。彼はもう、自らの死を隣人のように認識している時点で、とっくに壊れているのだから。
長い沈黙に木の葉同士がすれ合う音が流れて行く。涼やかな場には似合わない重い沈黙が、詠の心を逸らせる。
黒い瞳はこちらをじっと見つめるだけ。憂いが僅かに浮かんだその眼が……優しく綻んだ。
「クク、そうさな……お前さんの見立て通りに、俺は死ぬのが怖くないよ」
なんでもない事のように出てきた答えに、詠の胸がまた締め付けられる。
「守りたいもんがある。生きて欲しい人達が居る。作りたい平穏がある。だから俺は死ぬのが怖くない」
いつ死んでもいいような心は、洛陽でのあの時と同じだろう。聞いては居たが、この考え方を変える事は出来ないのだと彼女も悟っていた。
雛里が咎めてもダメなのだ。詠では間違いなく、彼を変えることは出来ない。
「だから……」
続きの言葉は聞きたくないと思った。耳を塞ごうかとも思ったが……ぽんと頭に置かれた掌の暖かさに誤魔化される。
しかしその続きは、詠にとって予想の範囲外であった。
「一緒に戦ってくれな、えーりん。俺はさ……えーりんも、ひなりんも、ゆえゆえも、猪々子もバカ共も他の皆も……信じてるから余計に怖くない」
ぽかんと開いた口を見て苦笑を零しながら、彼は尚も言葉を紡ぐ。
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