親愛と定めに抗いて
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分かってるくせに。
諦めるしかない。惚れたモノ負けである。此処で断る選択肢は詠には無い。
この旅で二人きりの時間は何度もあった。だがこれできっと……最後。次に二人きりになれるのは何時のなるのかと考えれば、詠の心が僅かに軋む。
「……分かったわよ、バカ」
「ありがと」
「ふんだ」
心の中を覗かれないようにそっぽを向く。寂しいと感じている心は絶対に見られたくなくて、彼女は見えないように唇を尖らせた。
よっこいせと立ち上がった秋斗はそんな彼女の隣に並び、ゆったりとした歩調で歩きはじめる。
――隣に並べるのは、今だけ。
それに気付いてしまってはいけないとは分かっていた。しかしもう、彼女の心は止まらない。
詠はさらに締め付けられた胸を誤魔化すように首を振って後を追った。
絶景とは言えないが、少しだけ開けた場所で二人は遠くを見やっていた。
夕暮れならば良かったのにと詠は思う。
あの美しい藍橙の空ならば、きっと意地っ張りな自分も素直になれたのだろうと思って。
隣に目をやれば、木漏れ陽が揺れる涼やかな其処で、彼はただ心地よさそうに微笑んで寝ころんでいた。
なんとなく気まずい。詠はそう思う。こういった時はさっさと本題を話してしまうのが吉なのだが……せっかくの二人きりを早く終わらせたくない気持ちが大きくて言い出せなかった。
――なんでボクがこんなに悩まなくちゃいけないのよ
バカらしい、といつもなら割り切れる。イライラが募る心は彼に対してではなく、自分に対してだと分かってもいる。
哀しきかな……それでも踏み出せない恋心を、もう彼女は自覚してしまっているのだ。
不意に、ゆるりと彼が手を伸ばした。木漏れ日の中から日輪を掴もうというように。
「いつもありがとな、えーりん」
「……何よいきなり」
突然の感謝の言葉を受けて訝しげに眉を寄せた彼女は、ようやっと彼の瞳を覗きこむ。
透き通った黒は宝石のようで、また一つ、胸の鼓動が高く鳴った。
「言いたい時に言っておかないとダメかなって思ったんだよ」
「あんたってばいっつもわけわかんないわね」
「クク、思いつきで行動してばっかだかんな」
「振り回されるボク達の身にもなってよ」
「すまんな」
言いながらも彼は楽しげに喉を鳴らすだけ。
この距離感はいつも変わらない。冗談を言う彼と咎めて拗ねる自分。洛陽から此処まで、彼が記憶を失っても変わっていない。
だからだろうか。きっとこの二人きりだけの時間を求めていたというのもある。
ほんの少し、ほんの少しだけだが……詠には珍しいことに欲が出た。
ストン、と横に腰を下ろした。不思議そうに見つめる彼はおかまいなしに。
合わされ
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