親愛と定めに抗いて
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流するわけにはいかず、出来る限り高い場所で皆を待っていた。
細心の注意を払い、数日前から“其処”に至る道々に敵の影が無いことは確認済みである。
その場所は……定軍山。
「ふぁあ……ねみぃ」
あくびを一つ。呑気なモノではあるが、こうも陽が暖かく風がそよぐなら眠くなっても仕方あるまい。
待ち人はまだ来ない。既に部隊の過半数は合流済みであるが、合流できなければ動くことは出来ないのだ。
劉備軍の出立から先回りして重要地点を抑えられたのは万全を期してこそ。例えば合流予定のモノ達が何等かのカタチで戦闘になったとしても上を取っている秋斗達は容易く挟撃に動くことが出来る。
「緊張感無いわね」
「一応警戒はしてるさ。ただいつでも気を張ってたって仕方ないってもんだ」
「そりゃ、そうだけど……」
「ニシシ、まぁいいんじゃねぇの? こうやってゆったりのんびり待つってのもいいじゃんか!」
「あ、猪々子。それだ、ロン」
「うぇ!? 待って! 無し! ちょっと待って!」
慌てる猪々子を尻目に彼は捨てられた札を拾って手札を広げていく。
あちゃー、と額に手を当てた隊員の二人が苦笑いを浮かべていた。
「ほい、跳満な。親だから一万八千」
「文ちゃん弱ぇ……」
「何回目のトビだよ……」
「うっせぇぞ! あーもう! アニキなんでそんなに強いんだよぉ」
「年期がちげぇよ年期が。こちとら麻雀を教えた側が負けてちゃ話しにならんのでな」
兵士達の時間つぶしの為に教えたお遊びではあるが、賭け事が大好きな猪々子が知れば混ざらぬはずもなく。
待ち人たちが来るまでと始めれば皆が囲んでわいわいと騒ぎ……そんな様子に詠は一人むすっとしてそっぽを向いた。
頭を抱えて蹲る猪々子に苦笑を零しながらも、彼は詠の不機嫌をなだめようと声を上げた。
「予定では明日到着のはずだがきっと早めに着くだろ。その前の最後の息抜きさ、許せえーりん」
「……あんたのそういうとこきらい」
「クク、そうかね」
つんとした声に肩を一つ竦めた。どうやら相当拗ねてしまったようだ。
気を抜き過ぎている息抜きに対してだけではないだろうと分かってはいるが、彼も愚かな予測だけで彼女の心を推察しようとはしない。
ゆったりと、普段通り彼女に声をかけるだけ。
「じゃあちょっくら散歩でもしにいくか」
「……こんな山の中で散歩って何処いくのよ?」
「そりゃ山だし。昇るだろ」
「はぁ? また長旅になるっているのに?」
「俺はバカなんでね、高い所が好きなんだ。ちょっと付き合ってくれたら嬉しいんだが……」
逡巡は一瞬。秋斗が突然こういった提案をすることなど詠にとって分かり切ったことである。
――ほんとズルいわよ、あんた。ボクが断らないの
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