第二話 エースとの衝突その一
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鈴木はプロに入る直前に阪神からスカウトが来ていたのだ。それでドラフト指名される予定だった。だが阪神側の都合で鈴木の阪神からの指名はなくなり近鉄から指名された。そうした経緯があるのだ。
鈴木は元々関西出身だ。そして近鉄も阪神も同じ関西の球団だ。リーグこそ違えどだ。そのことが今になって大きく影響してこようとしていた。
鈴木がだ。阪神に行くのではないかとだ。危惧する声が出て来ていたのだ。
「西本さん何考えてるんや」
「確かに阪急は強うした」
「けれど近鉄と阪急はまた違う」
「それは西本さんが一番よおわかってる筈やけれどな」
少なくとも西本が阪急のやり方を近鉄ナイン、ひいては鈴木に押し付けるとは誰も思っていなかった。少なくとも西本はそうしたことはしない。彼はどのチームのやり方を押し付けるのではなくだ。彼の指導を教えるのだ。彼はそうして鈴木と対していたのだ。
そしてだ。鈴木もだ。過去に彼にとって思いだしたくもないものがあった。
昭和四十四年のペナント終盤だ。阪急、奇しくも西本が監督を務めていたそのチームと近鉄が優勝争いをしていた。その時にだ。
鈴木は天王山の試合で打たれた。阪急側から言えば鈴木を打った。阪急は勝ち近鉄は敗れた。このことに当時の近鉄の監督だった三原が言ったのだ。
「鈴木は稲尾や秋山と違う」
かつて彼が率いてきた西鉄、大洋の大エース達と比べての言葉だ。
「いざという時に頼りにならん。そういうピッチャーや」
そしてだ。こうも言ったのだった。
「鈴木がいる間は近鉄は優勝できん」
こうした一連の言葉は鈴木の心に突き刺さった。彼にしてもチームの為に必死に投げているのだ。その彼にだ。三原は言ったのだ。
三原にしてみればチームを優勝させなければならない。その為には絶対のエースが必要である。三原は常に絶対のエースをチームの軸に据えそこから采配を振るい勝ってきた。西鉄黄金時代も大洋の奇跡の優勝もそうしたエースがいてこそなのだ。
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