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立ち上がる猛牛
第一話 キャンプその三
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「今の監督やったらひょっとしたら優勝できるかも知れんな」
「ああ、わし等をちゃんと見てくれてる人や」
「あの人は信頼できるで」
「厳しいけれど。見てくれてる」
「わし等を公平に見てくれて育ててくれる人や」
 彼等だけでなくだ。他の若手達も西本を信頼するようになっていった。有田修三、石渡治、吹石一徳といった面々も西本についていくようになった。まずは若手からだった。
 だが若手達だけでなくだ。西本は助っ人も見てだ。そのうえで指導するのだった。
 この時近鉄の助っ人にはジョーンズという男がいた。南海から移籍してきたと言えば聞こえはいいがそのバッティングの荒さから南海の監督である野村克也に放出されたのだ。その彼のバッティングを見てだ。
 西本は彼のところに来てだ。身振り手振りで細かく指導した。するとだ。
 それだけでだ。ジョーンズのバッティングが変わったのだった。彼は練習でもやたらと打つようになった。驚く記者達に西本はこう話した。
「ジョーンズは元々筋はええんや」
「パワーだけじゃなかったんですか」
「そや。問題はバッティングが荒いことだけやったんや」
 こうだ。打撃投手相手に派手なアーチを放ち続けるジョーンズを見ながらだ。記者達に話すのである。
「それを少しだけ訂正させたんや」
「それであそこまでなんですか」
「あそこまで打てるようにしたんですか」
「そや。あれは打つで」
 西本は満足した顔で話した。
「これまで以上にな」
「何か打線がかなり整いそうだな」
「そうだな」
 記者達は西本の話を聞いて次第にこう思うようになった。元々西本の打撃理論は定評があり大毎でもミサイル打線を率い阪急においても多くのバッターを育ててきている。そうしたことを知っているからこそ記者達も頷くものがあった。そしてその西本に元から近鉄にいる小川亨もだ。慕いだしたのだ。
 チームの中で比較的年配の小川はその温厚な性格と粘り強い打撃、安定した守備で知られていた。人望もありチームのまとめ役だった。その小川が西本を慕いだしたことも大きかった。
「小川さんも監督を認めたんやな」
「小川さん結構監督に怒られてるんやけれどな」
 見れば今もだ。小川は西本に怒られている。プロ野球人としては決して大柄とは言えない西本だがその怒る姿はまさに鬼の如くだ。海軍の軍服を着ればそのまま連合艦隊司令長官になれそうな風格さえある。
 その西本に怒られながらもだ。小川は西本の言うことを聞いた。そしてそのチームのまとめ役になっている小川が怒られる姿を見てだ。ナイン達も気を引き締めるのだった。 
 チームは成長が見られるだけでなくまとまりも出てきていた。西本の目指すチーム作りはキャンプからはじまっていた。それを見て近鉄は間違いなく変わると考える者も出てきていた。しかしだ。

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