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立ち上がる猛牛
第一話 キャンプその二
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「何か。ちゃうぞ今度の監督は」
「ああ、自分で言うて自分で動く人やねんな」
「だから阪急を優勝させられたんか?」
「そうなんか?」
 こうだ。まずは若手からだった。
 西本を認めだしたのである。この監督は何かが違う、そのことをだ。彼等は先入観なくだ。ありのまま感じ受け入れることができたのである。
 そのキャンプの中でだ。西本はあることをした。そのどちらもだ。西本を西本たらしめているとだ。後にまで言われることをしたのである。
 梨田昌孝、そして井本隆という若手選手達を見るとだ。彼等のランニングは実にだらけたものだった。少なくとも西本にはそう見えた。
 西本はそれを見逃さずだ。すぐに彼等に対して怒鳴ったのだった。
「そこの若い奴等、ランニング中止や!」
「えっ、監督か?」
「監督怒ってるのか?」
 その走っていた彼等もだ。西本のその怒鳴り声を聞いて思わず動きを止めた。西本はその彼等に対してさらに怒鳴るのだった。
「こっち来い!ダッシュや!」
 こう叫び彼等を自分の前に来させてだ。即座にだった。
 拳が飛んだ。梨田も井本もだ。その拳を頬に受けた。その拳は。
 硬かった。まるで鉄の様だ。そして何よりも熱かった。炎よりも熱いその拳からだ。西本の彼等への想いを知ったのである。
 それからだ。彼等は二度とランニングにも手を抜かなかった。そのうえだ。
 西本はランニングだけでなくだ。キャッチボールについてもだった。実に細かく投げ方やその受ける位置まで。細かく話すのだった。
 そのことにだ。選手達は最初戸惑いを隠せなかった。
「何もこんな基本的なことまで言わなくてもな」
「わし等プロやで。こんなん言われんでもわかるわ」
「ほんまや、それで何でここまで言うんやか」
「訳わからんわ」
 彼等も戸惑いを隠せない。しかしだ。
 その基礎から、それこそランニングやキャッチボールからの西本の指導は続きだ。当然選手一人一人のバットのスイングまで見るのだった。
 その中でだ。彼は一人の大柄な若い選手を見出した。
 羽田耕一。その彼のスイングを見てだ。西本はまず彼をナインの前に出すのだった。
 そしてその羽田にだ。こう言うのだった。
「振ってみるんや」
「わしがここで、ですか?」
「そや、。振ってみるんや」
 あらためて羽田に言うのだった。羽田もそれを受けてだ。
 ナインの前でバットを振ってみる。そのスイングは唸り声を挙げ竜巻の如く何度も振られていく。そのスイングを見ながらだ。
 西本はナイン達にだ。こう言うのだった。
「どや、ええやろ」
「何か速いですな」
「しかも強い感じで」
「このスイングがええんや」
 西本は今度はナイン達に顔を向けて話す。その間も横目に羽田のそのスイングを見ながらだ。話を続けるのである。

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