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約1つのラベルと心臓
第n+9話 いちどきりの無限回
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「あぁ、大丈夫」
 夏雄は尻の土を払いながら立ち上がった。
「よいしょっと」
 美都子が軍手で土器を掘り上げた。
「へぇ、こんな感じなのか」
 美都子の下に置いてある道具の数は多いが、どれもそこまで高価では無いだろう。夏雄は友人の家で犬小屋を作るところを見た時のことを思い出した。
「うーん、絵柄のタッチが約2500年前ね」
 美都子は土器を持ち上げながら呟いた。
「んなことまで分かるのかよ」
「擬人化した雷様をレッドカーペットよろしく迎えてる人間の構図からすると、恐らく大干ばつのあった辺りだわ。その頃はこの素材は貴重だったけど、恐らくだからこそ一縷の望みを託したのでしょうね」
「す、すげぇな」
 夏雄は素直に感心した。
「ありがと。でも、これぐらいは別に誰でも出来るわよ?」
「いやそうでもないぞ?」
「赤ちゃんだって出来る時は出来るし」
「出来ねぇと思うが」
「……例えばこれ、」
 美都子は最初に見つけた土器の一角を指でトントンと叩いた。
「これの出来た時代と土器の材質ぐらいなら分かるんじゃないの?」
「いや無理だろ」
「おぎや王朝時代のばぶ土器ね」
「そういう意味かよ」
「当たればいいのよ。勝てば官軍座れば牡丹王様の耳に冷やし念仏ってね」
「わけ分かんねぇよ」
 会話しながら美都子にやり方を教わり、適宜夏雄も土器を発掘していく
「優しい嘘っていうのも世の中にあると思うの」
「いきなりどうしたんだよ」
「幸せ世界の私と現実世界の私が幸せなら嘘か本当かなんて鬼のおひたしみたいなものよ」
「いまいち分かんねぇ」
「ほら、言うじゃない?石頭の上も初めが肝心って」
「言わねぇな」
「夏雄君も宗教を作ったら分かってくるわよ?」
「作らねぇよ」
「教義1 みんないい子にしようね」
「幼稚園の先生かよ」
「教義2 土器はご飯を盛る物だけど、土器もご飯もどっちも偉いんだよ?」
「無理矢理土器絡めてきたな」
「教義3 土器は食べ物じゃない」
「もっと早くに言えよ」
「教義5 今、何回目?」
「そのひっかけいるか?」
「っていう感じで、信者や丸ごとじゃがいもを幸せにしてみると新しいことが見つかるかもしれないわ」
「そうかぁ?」
「案外人を騙すのって楽だなぁとか」
「悪徳じゃねぇか」



 ある程度土器を掘り出して脇にどける作業の途中で、夏雄は家に戻ってきた。
 取り敢えず綺麗な手で美都子の付箋を手に取る。
『穴があったら土器を入れるだけで笑う年頃のイタリア』
「イタリア?」
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