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約1つのラベルと心臓
第n+9話 いちどきりの無限回
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 クーラーの効いた涼しい部屋で目を覚ました二会手(にえで) 夏雄(なつお)は、まずお腹を押さえた。
 それから、周囲を見渡す。
 銀色の硬質な壁で囲まれた部屋だった。何かの肉体労働の様子を描いた油絵、なにやら波々と装飾された壺、この部屋の住人は恐らく金持ちだろうと夏雄は推測した。
「あら、起きたのね」
「おはよう」
「おはよう」
 挨拶を交わしながら夏雄は、侍乃公他(じおれた) 美都子(みつこ)が持って来た物に目をやった。
 それは土器だった。
「……それ、なんだ?」
 夏雄は黒茶けた土器を指差した。
「擦りうさりんごよ」
 その土器には摩り下ろされた林檎が入っていて、その海の上に耳のように切られた林檎の皮が浮いている。
「……それも気になるが、そうじゃなくて、その器」
「これ?この世界ではね、ここ最近土器が盛んに発掘されるようになったの」
「そ、そうか」
「それらは結構な量で、歴史的に貴重な分以外でも随分な量あるから、見つけた家庭の人が大体持ち帰るそうよ」
「んな大量に見つかったのか」
「ええ。どうやら、石油ブームのおかげで各家庭の土が掘られるようになったらしいわ。犬も歩けば考える葦になるってことね」
「ならねぇよ」
「それで、繰り返し聞くけど夏雄君は歩くと何になるの?」
「初めて聞いたが人間のままだよ」
「ホント?」
「ああ」
「珍しいわね」
「どこがだよ」
「普通人間は、朝は資本家になって昼は日本人になって夜はロシアの格闘技の選手になるのよ」
「ならねぇよ」
「私は歩いてると突然鳥になったりするわね」
「はぁ?」
「結構忘れっぽくてねぇ」
「頭だけじゃねぇか」
 そんな話をしていると、綺麗なスーツに身を包んだ30代ぐらいの女がノックの後、扉を開けて入ってきた。
 彼女に礼を言いながら話を聞いていると、土器掘りを頼まれた。
 それを了承して、夏雄と土器堀りに詳しいという美都子の2人で外に出ると、絢爛な庭の一帯に生々しい土の穴があった。
「もうすでに1つ見えてるわね」
 美都子が指差した先に、人工のものと思われる硬そうな物が土を食い破って少しだけ姿を見せていた。
「おい、ホントに無茶苦茶あるんじゃないか?」
「旧てれすまいす紀は、主だった娯楽が土器の品評会ぐらいしか無かったと言われてるわ」
 そう言うと美都子はひらりと穴の中に飛び込んだ。
「へぇー変わった風習だな」
 夏雄は美都子を真似るようにぴょんと跳んで、
「右上げて!」
「ぇぇ!?」
 慌てて左足だけで着地した。
「お、っとお」
 そしてバランスを崩して思い切り尻餅をついた。
「って!」
「大丈夫?右のとこに土器が埋まってたから」
 美都子は夏雄の方に駆け寄ると夏雄のいた辺りの土器を掘り起こす作業に入った
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