Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
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反して勝手に閉じていく。
男性の指が、私の前髪を丁寧に撫でて、離れた。
この人は、誰?
その疑問は、綿のように白く柔らかな夢に沈み……
(……ああ、そうだった。ハウィスが私を拾って、看病してくれた日の夜。ハウィスとは別の誰かが私の傍に居たんだ。ちょっと高めの若い声なのに、さりげない動作や態度で妙な貫禄を感じさせる、不思議な男性)
完治後すっきり目覚めた朝の家には、ハウィスと私の二人しか居なくて。
男性の存在は、今の今までケロリと忘れてた。
枷であり盾だと言われた、あの甘い匂いのことも。
(甘い……果物みたいに甘くて、瑞々しい匂い……。私はあれを知ってる。つい最近、ハウィスの家で二回も嗅がされた、あの匂いだ)
あれは……
「返事はできる?」
パチッと開いた目が、人間とは思えない美顔に占領される。
反射的に悲鳴や拳を突き上げなかった自制心の強さに関しては、我ながら全力で誉めてあげたいと思った。
いきなり何の罰なんだ、これは。
驚きのあまり、心臓が破裂寸前なのだが。
「ミートリッテさん?」
辛うじて輪郭を保つ絶妙な距離で、二つの月が傾……
いや、ちょっと待て!
「大丈夫起きました平気です、故に、即刻離れてください! 私の息の根を止めるつもりか!? 顔が近い! 近すぎるっ!」
全身ずぶ濡れのアーレストが、同じく全身ずぶ濡れで仰向けに倒れているミートリッテの頭の両横に肘を置き、正面からじぃっと見下ろしていた。
体幹部には、服が吸い取った水分の重みしか感じない。
だが、両足の外側に触れているのは、神父の足で間違いないだろう。
想定外の『崖ドボーン』のち、気絶のち、目が覚めたら拉致犯の男が女に跨がる格好で覆い被さってて、口付ける気かと疑うほどに顔が近い……
よし、今だ!
仕事しろ自警団!
未成年者拉致の上に強制猥褻の現行犯だぞ!
やったね、捕まえたらお手柄だ!
……などと、頭の中で必死に訴えてはみたものの。
答えてくれたのは、夜行性鳥類の「ほーう、ほーう」という鳴き声のみ。
のんきな鳴き方が神父の雰囲気そっくりで、非常に腹立たしい。
「離れるのは良いけど、寒いわよ?」
「自分のせいでしょうが! 私で暖を取らないでくれませんかね!?」
「私じゃなくて、貴女が」
「大きなお世話ですっ!」
動こうとしないなら、実力行使で退かすまで。
頭突きでも噛ましてやろうかと頭を上げ……ふにゃんと落ちた。
「気っ持ち、わる……っ」
ぐるぅり歪んで回る神父の顔。
悪寒で震え出した全身に、嫌な汗が滲む。
吐き気を抑えたくて、両手を持ち上げようと力を入れるが。
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