暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
反して勝手に閉じていく。
 男性の指が、私の前髪を丁寧に撫でて、離れた。
 この人は、誰?
 その疑問は、綿のように白く柔らかな夢に沈み……

(……ああ、そうだった。ハウィスが私を拾って、看病してくれた日の夜。ハウィスとは別の誰かが私の傍に居たんだ。ちょっと高めの若い声なのに、さりげない動作や態度で妙な貫禄を感じさせる、不思議な男性)

 完治後すっきり目覚めた朝の家には、ハウィスと私の二人しか居なくて。
 男性の存在は、今の今までケロリと忘れてた。
 (かせ)であり盾だと言われた、あの甘い匂いのことも。

(甘い……果物みたいに甘くて、瑞々しい匂い……。私はあれを知ってる。つい最近、ハウィスの家で二回も嗅がされた、あの匂いだ)

 あれは……



「返事はできる?」

 パチッと開いた目が、人間とは思えない美顔に占領される。
 反射的に悲鳴や拳を突き上げなかった自制心の強さに関しては、我ながら全力で誉めてあげたいと思った。
 いきなり何の罰なんだ、これは。
 驚きのあまり、心臓が破裂寸前なのだが。

「ミートリッテさん?」

 辛うじて輪郭を保つ絶妙な距離で、二つの月が傾……
 いや、ちょっと待て!

「大丈夫起きました平気です、故に、即刻離れてください! 私の息の根を止めるつもりか!? 顔が近い! 近すぎるっ!」

 全身ずぶ濡れのアーレストが、同じく全身ずぶ濡れで仰向けに倒れているミートリッテの頭の両横に肘を置き、正面からじぃっと見下ろしていた。
 体幹部には、服が吸い取った水分の重みしか感じない。
 だが、両足の外側に触れているのは、神父の足で間違いないだろう。
 想定外の『崖ドボーン』のち、気絶のち、目が覚めたら拉致犯の男が女に跨がる格好で覆い被さってて、口付ける気かと疑うほどに顔が近い……

 よし、今だ!
 仕事しろ自警団!
 未成年者拉致の上に強制猥褻(きょうせいわいせつ)の現行犯だぞ!
 やったね、捕まえたらお手柄だ!

 ……などと、頭の中で必死に訴えてはみたものの。
 答えてくれたのは、夜行性鳥類の「ほーう、ほーう」という鳴き声のみ。
 のんきな鳴き方が神父の雰囲気そっくりで、非常に腹立たしい。

「離れるのは良いけど、寒いわよ?」
「自分のせいでしょうが! 私で暖を取らないでくれませんかね!?」
「私じゃなくて、貴女が」
「大きなお世話ですっ!」

 動こうとしないなら、実力行使で退かすまで。
 頭突きでも噛ましてやろうかと頭を上げ……ふにゃんと落ちた。

「気っ持ち、わる……っ」

 ぐるぅり歪んで回る神父の顔。
 悪寒で震え出した全身に、嫌な汗が滲む。
 吐き気を抑えたくて、両手を持ち上げようと力を入れるが。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ