暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
うやら、いつの間にかベッドに寝かされていたらしい。
 ……ちゃんとした寝床に入るのは、何ヵ月ぶりだっけ?
 ぼやけた視界を木造の天井から左下へと動かせば、二つの薄黒い人影が、自分に対して背を向けている椅子に座ってた。

(……だれ?)

 顔だけで向かい合う影達は、私が起きたと気付いているのかいないのか。
 特別潜める気もなさそうな声量で、何かを話し続けてる。

『……は、お前自身が嫌悪してやまない    の正式な になるってことだぞ?』
『承知しています』

 一人は、ぞんざいな言葉遣いの男性。
 もう一人は……あの人だ。
 泥やら何やらで汚くなってた私を抱きしめてくれた、温かい女の人。
 悲しい瞳の、優しくて綺麗な女性。

『良いだろう。お前は、 が   を務めてやる。コイツはお前が、好きに見届けてやれ』
『あ……ありがとうございます、       !』

 女性が、安心と喜びの色を(あら)わに声を弾ませる。
 彼女にとって嬉しい話……なんだろうか。

『ただし。コイツには、他の   同様、     を掛けておく。もしもコイツがアルスエルナ王国にとって害悪となるなら、その時は』
『させません。私が。決して』

 所々聞き取れない男性の言葉をピシャリと(さえぎ)る、女性の険しい声。
 男性は楽しげに喉を低く鳴らして立ち上がり。
 私の枕元で、腰を屈めた。

『だそうだ。せっかくだしお前もこういう面白い女に育てよ? 間違ってもクソつまらない木偶(でく)の坊なんぞにはなるな。 が退屈する』

(わたしがおきてるの……きづいてたんだ……)

 この人は誰だろう?
 燭台の明かりを背負って私の顔を覗き込んだ男性の顔は、やっぱり薄黒い影に塗り潰されていて。
 腕を振り上げればぶつかる距離に居るのに、髪の色すら判別できない。

『あ、……っふ……けほ! はぅっ、かふッ』

 あなたは、だれ?

 尋きたくて出した声は、自分でも驚く掠れ具合だった。
 ヒュッと抜けた呼気が喉を痛め、焼けただれたようなヒリヒリした感覚に堪らず咳き込んでしまう。
 苦しい。

『無理に喋るな』

 不意に、大きな手が私の頬を撫でて……
 あれ? すっごく甘い匂いがする。
 果物みたいな、瑞々しい匂い。

(なんだろ……おちつく……)

『良い匂いだろう? これはお前を縛る(かせ)であり、お前を護る盾でもある。さあ目を閉じろ。恭順か、独立か、断罪か。今日この時より、お前の未来はハウィスの手に預けられた。ハウィスの未来も、お前の心得次第だ』
『……わたし……しだ、い?』
『そうだ。お前の行く道に幸多くあれ。我が   の娘、ミートリッテ』

 重たい目蓋が、自分の意思に
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ