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百人一首
7部分:第七首

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第七首

                  第七首  安倍仲麿
 もう長い間この国にいる。どれだけいるのか。数えることはできるが数えてもどうにもならないこともわかっている。
 少なくともあの頃のことは覚えているし懐かしさも感じる。しかし今自分はこの異国の地にいる。ここから離れることは今はできない。
 郷愁の念は堪えようとしても湧き出てくるもので。それを抑えて何とかこの地に留まっている。
 今宵も故郷のことを考えながら空を見上げて。そこにある満月を眺めている。
 その満月を眺めているとまた思い出してしまう。子供の頃に、少年と呼ばれる頃に見たあの満月を。三笠山に登って見たあの月を。その輝きも同じだが今いる場所は三笠でも日本でもない。異国の地で一人なのだ。
 だがこの月を今故郷では誰が見ているのだろうか。父や母はまだ生きていて見ているだろうか。もう長い間会っていない幼馴染達か。それとも憧れていたあの人か。想いを募らせていると自然にその口から歌が出て来た。それは故郷の歌だった。

 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
 
 この国の詩ではなく歌を歌ったのだった。故郷の歌を。だが今飲むのは故郷の酒ではなく異国の酒で。また共に側に置いている肴もまた故郷のものではない。異国のものだ。
 その異国の中にありながら今故郷の歌を詠んだ。読み終えると涙が一条流れる。それを感じつつ今は満月を眺め続ける。故郷にもその輝きを見せている満月を。一人見上げるのだった。


第七首   完


                  2008・12・5

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