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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十一話 開幕ベルは鳴った
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メックリンガー提督の言葉にエーリッヒはクスクスと笑い声を上げた。俺もメックリンガー提督も決裁文書を持っている。気分転換といっても説得力は皆無だろう。

「何を御覧になっていたのです?」
「小官もそれを聞きたいですな、ただ夕焼けを見ていたという訳ではなさそうですが」
メックリンガー提督の言葉にいつの間にか近づいてきたリューネブルク中将が和した。

エーリッヒは少し困ったように視線をそらしたが、もう一度夕焼けの空を見て呟いた。
「三十年後の世界です」

三十年後の世界? 思わずエーリッヒの顔に視線が釘付けになった。穏やかな表情をしている。冗談を言っているわけではないようだ。
「三十年後ですか、閣下の目にはどのような世界が見えるのか教えていただけますか?」

エーリッヒはこちらを見ると柔らかい笑みを浮かべた。
「宇宙は一つになって戦争は無くなっていました。皆明るい顔をしていましたよ、メックリンガー提督」
「では、我々は失業ですかな」
「いいえ、戦う軍人ではなく平和を守る軍人になっていました」

平和を守る軍人、その言葉にリューネブルク中将が笑い出した。
「なるほど、それも悪くありませんな。人を殺さなくとも給料がもらえる」
リューネブルク中将につられるように思わず笑いが起きた。なんというかリューネブルク中将らしい人を喰った言い方だった。

「死ねませんね、未だ死にたくない」
「!」
ポツンとした言い方だった。気負いも哀しみも無い、ありのままの気持ち……。

「当然です。閣下には三十年後の平和な世界を作ってもらわなければ成らないのです。死んでもらっては困ります」
「ナイトハルト、私が死んでも三十年後には平和が来る。宇宙は一つになっているよ」
「!」

エーリッヒは微笑んでいる。
「私は自分が死んだからといって潰える様な夢は持っていない。そんな夢は持っちゃいけないんだ」
「……」

「私はただ、三十年後の世界を見たい……」
「……」
そう言うとエーリッヒはまた夕焼けを見た。

「フェザーンを征服し、反乱軍を降伏させる。その後は彼らを帝国の保護国として存続させる」
「保護国、ですか? 占領するのではなく?」
メックリンガー提督の問いかけにエーリッヒは頷きつつ答えた。

「そう、保護国として三十年存続させる。その間にこの帝国の政治改革の基礎を固める。独立色の強かった貴族領を帝国の直轄領にすることで一つの経済圏として再編制し活性化させる」
「……」

「平民をこの国の担い手にするべく権利とそれを行使できるだけの教育を与える。辺境星域を開発し帝国から貧富の差を無くす」
「……」

「そして反乱軍の人間が帝国に併合されても心配は要らない、そう思わせるだけの経済的繁栄と政治的安定を帝国にお
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