第三章
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「僕達を新戯作だの無頼だの言ってるね」
「無頼だね」
「作風もこうした酒の飲み方も」
実際にウイスキーを飲みつつ話す。
「無頼だっていうからね」
「飲み方もかい」
「そうだよ、そっちもね」
「つまり僕達は何でもだね」
「そうだよ、アウトローでね」
「無頼なんだね」
「義の為に遊ぶ」
太宰自身の言葉だ。
「それがまた無頼らしいね」
「作品も生き方も」
「そうらしい、それなら」
「無頼にだね」
「やっていこうか、最後まで」
「死ぬまでだね」
「既存が駄目なら」
それならばというのだ。
「もう自分達でだよ」
「無頼にだね」
「新しいことをやっていこう」
「こうした世の中だしね」
石川は不意に店の扉の方を見た、その扉の外は空襲の結果焼け野原となっている。東京中がそうなっているのだ。
その外の世界を思い出しつつだ、石川は言った。
「無頼にやっていこうか」
「そうしよう、こんな世相だよ」
織田は自分の作品の名前を言葉に入れた。
「無頼にやっていこう」
「GHQの政策で地主も何もなくなった」
太宰は実家のことを思った、ここで。
「それならやっていこう」
「嫌われるなら嫌われろ」
坂口は学生時代からの反抗心を今も衰えず持っていた。
「僕はそれでも書くぞ」
「太く短く書いて生きていこうか」
最後に言ったのは石川だった。
「僕達はね」
「さて、それなら」
「今日も徹底的に飲もうか」
「そして朝に帰って書くとしよう」
こうした話を四人でしてだった、彼等はルパンの中でウイスキーを洒落た身なりで楽しまず飲んだ。しかしだった。
それからすぐにだった、まずは織田が結核で東京で客死し。
太宰は心中した、その後を追ってだった。
「僕は何かもう」
「太宰くんが死んで」
「はい」
石川はまたルパンの中で飲んでいた、今日は坂口は他の店に行っていていない。代わりに二人いてそのうちの一人は。
大柄で色黒の男だ、彼は飲みながら泣きつつ言っていた。名前を田中英光という。
「何かもう気がなくなりました」
「そうなんだね」
「いや、太宰さんは馬鹿ですよ」
田中は泣きながら言った。
「本当に」
「心中したから」
「書けなくなったとか書き残して」
「遺書にだね」
「全く、馬鹿ですよ」
田中はまたこう言った。
「そうとしか言えないです」
「そう言うのだね」
「全くですよ、僕も書けなくなりそうですから」90
ウイスキーを自暴自棄気味に飲みつつの言葉だった。
「お暇しますか」
「これでだね」
「はい、もう」
「そうか、じゃあね」
「また」
こう言ってだ、田中は店を後にした。だが。
残る一人、痩せた顔に眼鏡をかけた檀一雄がだ、店を後にする彼を
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