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ミシュラー
第一章
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                  ミシュラー
 イラクはまだ落ち着いているとは言えない状況だった、戦争でサダム=フセイン政権が倒れてもう結構な歳月が経ったがだ。
 テロだのそうした話が尽きない、古の都バグダットも戦禍やテロの傷跡がある。
 だが人々はその中でも逞しく生きている、それはばこのバルマク家もだ。
 その名前についてだ、長男のウサインは冗談めかして友人達によくこう話した。
「アラビアンナイトに出て来る家だからな、うちは」
「あのジャアファルのか?」
「カリフの宰相だった」
「凄い美形だったっていう」
「あの人の家か」
「そうなんだよ、それはもう凄くてな」 
 アラビアンナイトでのことをだ、ウサインは笑って話すのだった。
「権勢並ぶ者なきという位に」
「けれどその権勢をスルタンに危ぶまれてだと」
「それかカリフの妹と不倫したかで」
「ジャアファルは処刑されたな」
「そしてバルマク家自体も粛清されただろ」
「千数百人がな」
 この当時このあまりにも急で徹底した粛清に世は騒然となった、当時のカリフであったハールーン=アル=ラシードの行動の中の最大の謎とさえ言われている。
「それで滅んだんじゃないのか?」
「だったら御前の家もどうなんだ」
「名前が一緒なだけだろ」
「ついでにバグダットに昔からいるだけで」
「ははは、それがな」
 笑って言うウサインだった、この場合は常に。
「生き残っていたんだよ」
「ご先祖様がか」
「そのジャアファルの時代から」
「それでずっと住んでいた」
「そうだったっていうのか」
「モンゴル帝国が来てもティムールが来ても」
 どちらもこの街を徹底的に破壊し住民を皆殺しにしている。
「生き残っていたんだよ」
「それも嘘だろ」
「どっちの時もバグダット廃墟になったぞ」
「何もかも破壊されて犬や猫や鼠まで殺されて」
「後には骸骨しか残らなかっただろ」 
 友人達もこのことを言う。
「確かに御前の家はずっと商売しててな」
「羽振りもいいが」
 王国だった時からバグダットの裕福な大店を営んでいる、政治的な行動は一切しなかったので王国時代もフセインで有名なバース党時代も今も商売を続けている。
「それでもな」
「あのアラビアンナイトのバルマク家とかな」
「それは嘘だろ」
「あの時に粛清されてモンゴルとかも来たのに」
「実際は違うだろ」
「部族も」
 友人達はこう言うがウサインは笑ってそうだと言う、だが。
 彼は息子のアサムがいよいよ結婚する時にはだ、真剣な顔でこう言った。
「結婚してからのことはもう何度も話しているが」
「うん、何かとあるね」
「奥さんは大事にしろ」
 結婚相手はというのだ。
「そして離婚するとはな」
「言ってはならない」

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