5部分:第五首
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第五首
第五首 猿丸太夫
山の奥深くに入る。すると従者達が太夫に対して言ってきた。
「流石にここまで来ると見事なものですね」
「そうじゃのう」
太夫は満足した顔で彼等の言葉に頷く。そうして山の紅葉を眺めている。紅葉を眺めるうちに彼は恍惚とさえしている。秋の深まりをその紅から感じ取ってのことである。
その恍惚と共に紅葉の葉を踏む。自らもその紅に染まるようにも思える。秋の中に入っていくように。しかし秋の深まりを感じさせるものはこれだけではなかった。
鹿の鳴き声が聞こえてくる。木と木の間に鹿の姿が見える。その立派な体格から雄鹿だとわかる。鹿は首をあげてゆうゆうと鳴いている。どうやら己のつがいを探しての声であるらしい。
鹿の角は見事なものでありその姿も。太夫はその鹿がつがいを呼ぶその声に悲しさを感じた。そしてもう一つの感情も。今それを感じ取りふと口ずさむのであった。
奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき
こう口ずさんだ。紅葉と鹿を見ながら。口ずさんだその歌はすぐに従者達に覚えられてしまった。
「よい歌ですな」
「そうであればよいがのう」
謙遜して従者達に返す。彼にとっては今は歌の出来はまずはどうでもよかった。まだ紅葉とその間にいる鹿を見ているのであった。
そのうえで一言言った。
「つがいに会えればいいがのう」
「はい。それは確かに」
従者達もその言葉に頷く。紅葉と鹿はそのまま秋の絵となって。その深まりを見せていたのであった。
第五首 完
2008・12・3
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