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シュロム
シュロム
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アツマレ、アツマレ。
頭の中で声がした。
人々はミジンコの群集のように横断歩道を行き来する。車の音、人々の足音が鳴りわたる真昼の都会である。
アツマレ、アツマレ。
それはどこで聞いたというわけでもなく、誰の声というわけでもない。
たくさんの車が走り抜ける高速道路。子供たちがワイワイとはしゃぐ声が聞こえる遊園地。どこを見ても、ごく一般的な都会の風景に変わりない。
アツマレ、アツマレ。
それは何もかもが不明瞭で、ただ聞き覚えのある、馴染みのある声だった。

気がつくと、広く陰湿な部屋にいた。高い天井に吊るされた蛍光灯は一部不気味に点滅している。
ふと目の前に人が立っているのに気がついた。その周囲には五つの身体がグッタリと横たわり、床を真っ赤に染め上げている。
途端に恐怖が身体中を支配した。
中央に立つ人がこちらに振り向いたように思えた。男だという事までわかった。他に何か、情報を…。そう思って目を凝らして観察すると、男の両手に目がいった。キラリと光ったからだ。男が握っている、金属光沢を放つ十センチくらいの鋭利な物。考えなくても感じ取ることができた。ナイフだ。男は両手にナイフを持っている。
男はゆっくりこちらに向かって歩き始めた。逃げようにも体が動かない。男はそれを知っているかのようにゆっくり余裕を持って歩いてくる。男は裸足で、一歩歩くごとにピチャ、ピチャと液体が跳ねる音がする。
男は満足のいくまで近づくと、その両手を無造作に振り回した。異物が自分の身体を通り抜けるのがわかる。途端に身体から真っ赤な液体が吹き出て、視界が歪んだ。立っていられなくなり、一瞬よろめいた。
自分も床に真っ赤な染みを残すのだろう。そう思いながら床に向かって勢いよく倒れこむ。
目が覚めバッと飛び起きた。目の前にはいつもと変わらないベッド付近の風景が広がっている。
…夢か。
とてつもなく嫌な夢を見た。紋別空奈は無意識のうちに涙を拭う。時計を見ると七時半だ。とても鮮明な夢だった。またあれだろうか。不安に思いながら掛け布団をどけ、フラフラとベッドから立ち上がる。
台所へ向かって、コップに水を入れ一気に飲み干した。喉が潤い、何と無く目が覚める。
こんな日はもう何もしたくない。そんな気分だ。
それから寝ぐせ直しにシャワーを浴びた。丁度この日は日曜日。何をするのも自由な日だ。特に約束というのもないため、一人気ままに遊ぶことができる。
「何すっかなー」
女性にしては男じみた声で呟いた。その声は孤独な一人暮らしの部屋に嫌に響く。
ペットを飼う手もあるのだが、ここのアパートの大家は口うるさく、犬などの大型のペットは飼えない。よって魚などの小型ペットを飼う事になるが、すぐに殺してしまう自信があるため飼う気がしない。
従ってこの様だ。
ちなみに彼氏もいない。

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