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百人一首
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第三十八首

                  第三十八首  右近
 あの時誓ったことは幻だったのか夢だったのか。
 若し心変わりをしたその時は。
 どうかこの命を裁いて欲しい。何があってもいい。
 そこまで神の御前でまで誓った愛だというのに。
 それなのにあの人は忘れてしまった。裏切ってしまった。
 自分のことを忘れてそして裏切ってくれた。
 このことを怨んでも怨みきれず。どうしても心が張り裂けそうになってしまう。
 けれど怨んでも。それでもあの人を愛する気持ちはまだ強く残っていて。
 それで怨みの中でも気になってしまう。あの人のことは。
 神罰が下っても。それで何があろうとも。
 それは自業自得である筈なのに。
 それでも気になってしまう。あの人のことは。忘れようとしてもとても忘れることはできなくて。それでついつい思ってしまってそのうえで。
 その怨みと気遣う二つの気持ちを今一緒にさせて。その気持ちは歌になって表われたのだった。

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな

 複雑な二つの気持ちを今歌に詠う。あの人への想いは今歌になった。歌になったけれどそれで終わったわけではなく怨みと気遣いはそのままだけれど。
 それでも詠うのだった。あの人のことを。果たしてどうなってしまうのかと気掛かりで。


第三十八首   完


                 2009・1・5

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