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百人一首
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第三十七首

                第三十七首  文屋朝康
 秋になってふと気持ちがそのつもりになって。
 それでやって来たのがこの野原。まずは何もないのどかで静かな朝の野原だった。ところが立ち止まって見渡してみると。あることに気付いた。
 秋の野原は露に覆われていてそれに飾られていて。もう服はその露で濡れてしまっていたけれどそれでもそれは全く気にならなかった。ただその露が目に入ってその目を細めさせている自分に気付いただけであった。
 風が少し吹いただけ、その度に露が煌き放っていって。
 それで一瞬で消えていってしまう。
 本当にそれで消え失せてしまう。儚い命。一瞬のうちに風が吹いただけでそれで消えてしまう。そんなものでしかないのだけれど。
 水晶の玉の様に煌いていて。そして一つ一つがあまりにも小さくてそこに糸を通すことすらできない有様で。そんなとても小さな露の集まりを見て消えて欲しくないとこうも願うのだった。
 それで願わずにはいられなかった。風に対してどうかこの露を壊さないでそのままで保っていて欲しいと。こう願わずにはいられなかった。
 その気持ちが歌になって出て来て。そうして出て来た歌は。

白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

 この歌が出て来た。野原にある露は何処までも美しくしかも儚い。その儚さを今ここで歌に残した。儚い命は歌に詠うそばから風によって消されてしまうけれど。


第三十七首   完


                 2009・1・4

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