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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#17
DARK BLUE MOON\ 〜End Of Sorrow〜
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 いつもいつも己に対して抱いてきた感情だったけれど、それとは全く違った気がした。
 そのとき。
「“ラルク……アン……シエル……” 」
 不意に、口唇を重ねながら少女がある言葉を呟いた。
 否、その声は少女の背後から、或いは全く別の領域から聴こえたような気がした。
 次いで、己の内面世界を汲み出す叙情詩のような囁きが、一つの旋律となって紡がれる。
「……時は奏でる……想いの詩を……溢れ出ずる……清き聖霊の……御名と共に……」
 ソレと同時に、突如全身の細胞全てが一斉に熱を噴いたように活性し、
凄まじい血液の奔流が外に迸る程の勢いで駆け巡った。
 追走するように、透明で緩やかな液体が躰の至る処で光る波紋のように棚引き
ソレが触れた箇所から、腐蝕した鎖が幾重にも細胞に癒着したような
(おぞ)ましき苦悶が、跡形もなく剥離(はくり)していくのを感じる。
 魔法の言葉?
 そう錯覚する程に、己の躰の裡で起こった変異は不可思議極まりなかった。
 先刻、ノエルが口移しで飲ませた薬に、このような効果が在るとは到底想えない。
 仮に在ったとしてもこんなすぐに、躰の奥底の部分まで根深く巣喰った
病魔が快癒する事は在り得ない。
 まるで少女の想いが、そして祈りが、
『安物の薬を神の水へと変貌させた』
そんな莫迦げた奇蹟としか思えない現象だった。 
 でも、一体何故?
 何でこんな私なんかを、自分の命の危険を冒してまで助けようとするのだ?
 あんなに非道い事をしたのに。
 殺されこそすれ、救う理由など何もないのに。
 その解答(こたえ)は、そっと花唇を離し己の胸に寄り添う少女の口唇から語られる。
 そして告げられた言葉は、たったの一言。
「死なないで……」
 汗で(まみ)れた娼館着に顔を埋めアイスブルーの瞳から伝う透明な雫と共に、
何度も何度も、少女は同じ言葉を呟いた。
「死なないで……死な……ないで……マー姉サマ……」
 そのときになって、初めて気づく事実。
 あぁ、そうか。
「理由」 なんて、無いんだ。
 どれだけ非道く扱っても、厳しい口調で罵っても、この娘はずっと、
こんな自分を “姉” と呼んで慕ってくれていたのだから。
 他に縋る者がいないから、媚びを売っているだけだと想っていた。
 一人でいるのが寂しいから、捨てられた子犬のように擦り寄ってくるのだと想っていた。
『でも、そうじゃなかった』
 そしてソレは、自分にとっても同じ事。 
 この娘が憎かったんじゃない。この娘が嫌いだったんじゃない。
 どれだけ悔やんでも、決して赦されない事もたくさん行ってしまったけれど、
『でもソレだけじゃなかった』
 自分の作った料理を、美味しいと言ってくれた。
 大き過ぎる娼館着を繕った時、
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