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百人一首
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第三十六首

              第三十六首  清原深養父
 夏の夜は不思議なもの。ただ夜になるだけではなくて。
 その短さは驚くばかり。
 まだ宵だと思って月を眺めつつ酒を楽しんでいると。酒の美味さに心を奪われてしまっていたとしても。
 何時の間にか夜が明けてしまっていた。気がつかばもうそれで夜が終わってしまうのだ。
 気付けば朝になっていて。まるで夜なぞ最初からなかったかのよう。酒はまだかなりあるのにそれを置いて勝手に終わってしまうのだ。
 月はどうなってしまったのか。
 急いで沈んでしまってそれっきりなのか。まるで最初からそんなものはなかったかのように、出てはいなかったかのように姿を消してしまっている。本当にそれっきりで姿を消してしまって後には影も形もない。
 それともただ雲の何処かで休んでいるのだろうか。そう思ってしまう程だった。月を探してみても見当たらずさらにそう思わざるを得なかった。本当に何処にも見えはしなくなったのだから。
 そんなあっという間に過ぎ去った夏の夜を思い歌を詠ってみた。それがこの歌。

夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ

 本当に夏の夜は一瞬で。気がつけば過ぎ去っている。そんな早い夏の夜のことを詠って今は一人。一人夏の朝を過ごしている。過ぎてしまった夜のことを思いつつ。


第三十六首   完


                   2009・1・3

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