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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十八話 包囲
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は反対していない、だとすると……。

「知っていたのさ」
「やはりそうか……。ベーネミュンデ侯爵夫人の一件、そしてローエングラム伯を切り捨てようと今の艦隊司令官達を集めた事だな。ケスラー提督から聞いている」

俺の言葉にエーリッヒは“そうか、知っていたか”と呟いた。
「私とローエングラム伯は協力関係に有るように見えながら、あの時には
お互いの不信感は酷い事に成っていた。シュタインホフ元帥は情報部を使ってその辺りを把握していたんだ。いずれは主導権をどちらが取るかで争う事になる、そして勝つのは私だろうと判断した」
「……」

「その後はシュタインホフ元帥の予想したとおりになった。宇宙艦隊の中で私の影響力が強まり、焦ったローエングラム伯はイゼルローンで敗北した」
「そして卿が宇宙艦隊司令長官になった」
俺の言葉にエーリッヒは頷いた。

「皮肉な話だ。ローエングラム伯がいなければ私が宇宙艦隊副司令長官になる事は無かった。そして司令長官になることも無かった」
「どういう意味だ」

「懲りたのさ。野心家の実力のある貴族を宇宙艦隊司令長官に据えれば常に簒奪の危機に怯えなければならないと。むしろ平民のほうが御し易いとね」

「因果な話だな……」
「全くだ」
溜息が出た。俺は話が余りに生臭い事にうんざりしていた。おそらく表情にも出ていたのだろう。エーリッヒは苦笑しながら“うんざりするだろう”と言って話を続けた

「別に銀河帝国に限った話じゃない、過去の歴史が証明しているよ。実力のある高級軍人が強大な武力を握ったとき、何を考えるか? 統治者達の永遠の悪夢だ。イゼルローン要塞の艦隊司令官職と要塞司令官職が統一されなかったのも根本にはそれがある」

「司令官職が減るからじゃないのか」
「表向きはね。まさか反乱を警戒していますとは言えないだろう」
「それはそうだが」
思わず失笑した。確かに反乱を警戒していますとは言えない。

「あの要塞に立て篭もって反乱を起されたらとんでもない事になる。それを恐れたのさ」
「疲れる話だな。エーリッヒ、卿は疲れないのか?」

「この程度で疲れていては、宇宙艦隊司令長官は務まらんよ」
そう言うとエーリッヒは笑い出した。
「では俺には一生無理だな。頼まれてもごめんだ」
冗談ではなくそう思う。こんな話を毎日聞いていたら人間不信の塊になるだろう。

「成りたがる人間にはそれが分からない」
「困ったもんだな」
「話を戻していいか、ギュンター」
「ああ、頼む」

「イゼルローン要塞陥落で三百万人が死んだ。エーレンベルク元帥もシュタインホフ元帥もあの敗戦でローエングラム伯の野望は断たれたと見た。二人とも伯の処分では意見が分かれたが、軍から追放しろとは言わなかった」
「……」


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