32部分:第三十二首
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第三十二首
第三十二首 春道列樹
ふと川辺を見ればそこで紅葉が舞っている。
風の悪戯に乗ってひらひらと舞いながら鬼ごっこを楽しんでいる。人間、それも男女が行うその鬼ごっこをさえ思わせるものがそこにはあった。
山川を駆け巡るようにして舞い散っている。
逃げる紅葉もあれば追いかける紅葉もあって。それぞれがひらひらと舞い飛んでいる。
やがて疲れた紅葉達は。捕まえて捕まえられて落ちて。
そのまま川の中で身体を休める。
水の中で重なり合って。流れたくても流れられなくなっているかのよう。それがまた実に美しいものであった。
紅の柵が川の中で何時の間にかできていて。それで流れられなくなっている。紅と紅が重なり合ってまた紅を作って。その紅が一つの世界になっていた。
それを見ていると自然に言葉となって出て来たのは。歌だった。まことに自然にその口から出てしまった歌だった。
山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
山の中に流れる川を染め上げる紅葉。その美しさを見つつ詠った歌は。今ここで紅葉を讃えている。
あまりにも美しい紅葉の舞と水の中の柵。そのどちらも眺めつつ詠った歌。今ここに留めておくのだった。この静かな山と川に。歌を詠うその気持ちまでもを残しておきこの場を後にしたのであった。
第三十二首 完
2008・12・20
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