第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#16
DARK BLUE MOON[ 〜Scar Faith〜
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はマージョリーの予約した部屋
(よりにもよって最上階のロイヤル・スイートルームである)を目指す。
頬にかかる、酒気の入り交じった悩ましげな吐息。
鼻腔を取り巻く、パヒュームの残り香と入り混じった女の香り。
暑いからといって大きくはだけた胸元の豊かな双丘が
不遠慮に背へと押し付けられるが、そこにまで気を回している余裕はない。
本当に、今の自分は糸一本で鉄骨を支えているようなもので、
いつ崩れ落ちてしまっても不思議はない。
そして倒れたら、もう二度と立ち上がるコトは不可能だろう。
「悪ィなぁ〜、カキョーインよぉ〜。いつもはここまで呑まねーんだが、
一体何がそんなに御機嫌だったのかねぇ〜、我が麗しの酒 盃はよぉ〜、
ヒャッヒャッヒャ」
自分の腰元からマルコシアスの戯弄するような銅鑼声が聞こえたが花京院は無視した。
手伝ってくれない(手伝えない?)のならせめて黙っていて欲しい。
ただでさえ周囲の人目を引く状況だというのに、
尚かつ喋る 『本』 を訝る者の対処にまで回す気力はないのだ。
その、とき。
「……ゥ……」
耳元のすぐ傍で、消え去りそうな美女の囁きが聞こえた。
「……ルル……ゥ……」
想わず視線を向けたその先、閉じたマージョリーの瞳から、
透明な雫が一条音も無く流れ落ちる。
ソレは己の学生服の肩口へと伝い形をなくす。
同時に彼女の胸元から、鈍い光を称える銀色のロザリオが零れた。
「……」
家族か誰かの、名前だろうか?
確かフレイムヘイズは己の肉親なり恋人なりを紅世の徒によって存在諸共喰い殺され、
その 『復讐』 を動機に人間としてのスベテを捨て “変貌” する者が
多いとアラストールから聞いたコトがあった。
「やれやれ、想い出しちまったか。
或いは、アノ “嬢ちゃん” との、
『在りもしねぇ』 幸福な未来の夢でも見てんのかね」
珍しく真面目な口調でマルコシアスがそう言う。
「ミス・マージョリーの、御姉妹か誰かですか? ソレを紅世の徒に……」
「イヤ、そうじゃあねぇ。 『そーゆーんじゃあ』 ねーんだ」
花京院の足並みに合わせて振り子のようにゆらゆら揺れる本が、
複雑な心情と共に告げる。
「結果的には同じコトになっちまったが、紅世の徒に身内を喰われたワケじゃあねーよ。
『もしそうだったなら』 逆にソッチの方がどれだけマシだったかよ……」
微かな悲哀を滲ませて言葉を紡ぐ紅世の王の言葉を聞きながら、
花京院はもう一度自分に寄り添うマージョリーの顔を見た。
頬を朱に染め微かな吐息を漏らすその眠れる美女は、
どこにでもいる一人のか弱い女性にしか見えなかった。
【5】
長い時間と労力を費やし、
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