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百人一首
19部分:第十九首

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第十九首

                  第十九首  伊勢
 一時でも、それが無理なら人目でも逢いたいと思っているのに。ただその人に逢いたいと思っているそれだけのこと。
 けれど逢えず。今日も逢えず。今は一人で昼も夜も過ごしている。
 そのことにどうしても耐えられず悲しみに打ちひしがれて。
 そうして過ごすその夜はどれだけ悲しいものなのか。それをあの人はわかっているのか。わかっていたらどうして今自分を一人にしているのか。
 そんなことを思いながら一人時を過ごすこの悲しみ。
 この悲しみに涙を流しつつそれでもあの人を想い。逢いたいと思いつつただひたすら悲しみを噛み締めている。
 その中で悲しみに髪も心も乱れさせ。そうしておもむろに筆を取り書くものは。それは歌だった。歌に己の今の悲しみも寂しさも込めたくなったのだ。そこに何を見るのかはわからないままに。

難波潟 みじかき葦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや

 一人で書き詠い終えても口から出るのは溜息ばかり。目からは涙ばかり。どちらも悲しみの色に染まっている。その悲しみ、寂しい悲しみに心を傷ませながらもあの人のことを想う。想っても仕方ないのにどうしても想ってしまう。想えど想えど悲しみも寂しさも尽きることはなくそれは自分自身が最もよくわかっていることなのに。それでも想わずにはいられないのだ。想わずにいられぬこの心。
 今日も一人で悲しみに涙し時を過ごす。その中で時だけが過ぎていく。一人だけの時が。


第十九首   完


                 2008・12・17

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