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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十六話 シミュレーションと実戦
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ずしぶといね。途中でくじけそうになったよ」
司令長官とミュラー提督が話しながらシミュレーションルームから出てきた。二人とも笑顔がある。もっともミュラー提督の顔にあるのは苦笑だろうか。
二人が席に着き、改めて検討会が始まった。今度は活発に意見が出る。
「それにしても、あの本隊と右翼の攻撃が陽動だとは思いませんでした」
「うむ、ミュラー提督の裏をかいて正面を突破するのかと思いましたが」
「しかし、いつの間に艦隊を再編したのか、気付きませんでした」
それらの意見を司令長官を穏やかな表情で聞いていたが、ぽつりと呟いた。
「ま、所詮はシミュレーションですからね」
所詮はシミュレーション……。どういう意味だろう?
俺の疑問を口にしたのはキルヒアイス准将だった。
「閣下、それはどういう意味でしょう?」
「実戦でも同じことが出来るかどうかはわからない、そういうことです」
「?」
皆訝しげな表情をしている。それを見た司令長官は苦笑を浮かべながら説明した。
「本隊と右翼にかなり無理をさせましたからね。損傷率は二割を超えるでしょう。実戦でそこまで無理をさせられるか、難しいですね。むしろ損害を少なくして撤退するという選択肢を選ぶかもしれません」
「撤退するのですか?」
思わず俺も隣にいる司令長官に問いかけていた。少し声が大きくなっていたかもしれない。あれだけ鮮やかに勝ったのに何故撤退するのか?
「ええ、戦略的に重要ではない戦いなら、無理をして大きな損害を出してまで勝つ必要は無いでしょう」
「……」
「検討会が始まる前に戦術シミュレーションで勝敗ばかり重視すると戦闘と戦争の区別もつかない戦術馬鹿を生み出すことになると言ったのはこのことです」
「……」
「無理をして勝つ必要が無い戦闘で大きな損害を出して勝ってしまう。そして肝心の戦いで戦力不足から敗れてしまう。戦闘に勝って戦争に負ける、本末転倒です」
「……」
「ワルトハイム少将、シミュレーションで勝てないと判断したら、どれだけ損害を少なくして撤退できるか、上手に負けられるかを確認してください。必ず実戦で役に立ちます。そのためのシミュレーションです」
「はっ」
そういうと司令長官は所用が有ると言って席を立った。全員が起立して敬礼で司令長官を見送る。司令長官は答礼すると部屋を出て行った。
「やれやれ、司令長官は昔と少しも変わらんな。そうは思わんか、ミュラー提督」
「そうですね。戦術家としてあれだけの力量を持っていながら、それを重視しない。シュターデン教官が怒るわけですよ」
クレメンツ提督とミュラー提督が顔を見合わせて苦笑している。クレメンツ提督が私を見た。
「ワルトハイム少将、軍人である以上、勝つ事もあれば負ける事もある。指揮
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