11部分:第十一首
[8]前話 [2]次話
第十一首
第十一首 小野篁
唐に行くのを断りその罰として流されることになり。今彼は見送りの人達を前にして船に乗ろうとする。その手にはあるものがあった。
「それは」
「小袖です」
問われてこう答えた。
「これを持って行きます。あの方のものを」
「そうですか。それでですか」
「はい」
悲しみに頭を垂れつつ答えた。
「あの方はもうおられませんが。それでも」
「わかりました。それではどうぞ」
「そしてです。あの方にお伝え下さい」
今度は寂しさに身体を責められつつ言うのだった。
「貴女の心を抱いて私は海を渡ったと」
「左様ですか」
「はい。そして」
さらに言うのだった。彼の言葉は悲しみに覆われ出すのも辛かったがそれでも出て来る。言葉はやがて歌となりこう詠ったのだった。
わたの原 八十島かけて 濃ぎ出ぬと 人には告げよ 海人のつり舟
悲しみの心のままに詠った。詠い終えた彼は海に顔を向ける。海は静かであるが暗く沈んだものであった。まるで彼の今の心をそのまま表わしているかのように。
「そしてこの歌も」
「あの方にですね」
「贈らせて頂きます」
その沈んだ顔で述べたのだった。
「そのうえで今。向かいます」
「御元気で」
「また。御会いしましょう」
最後にこう告げて舟に乗り海を渡る。悲しみをそのままに流される彼はもう振り向かなかった。胸に今は亡き想い人の心を抱いて。今は流れていくのであった。
第十一首 完
2008・12・9
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ