10部分:第十首
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第十首
第十首 蝉丸
都に向かう人も出て行く人もそれぞれ行き交う。この関において誰もがすれ違う。
出会いを楽しみ別れを悲しみ。関において人々はそれぞれの顔を見せている。
笑っている人もいれば泣いている人もいる。希望を見ている人もいれば悲しみに包まれている人もいる。その人によって顔が違っている。
けれど。知っている人も知らない人も遭っているこの関でそれを見ていると自然に口ずさんでしまっていた。人々の姿を見ていて。それがこの歌だった。
これやこの 行くや帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
歌うと何故か微笑みそれと共に寂しい気持ちになってしまった。自分がその出会いと別れを身に受けているわけではないのに。それでもつい笑い寂しさを感じてしまったのだった。
その歌を関に置いて去ろうとしたら人々がそれを見て。自分が置いたことには気付かなかったけれどそれでもその歌を見て言うのだった。
「私達そのものだな」
「全くだ」
自分達のことを詠ったものだとすぐにわかって言い合っていた。それを聞くだけで何か嬉しいものがある。
「この歌。また会おうぞ」
「何時か何処かで」
そんな声さえ聞こえてきた。今も人が行き交う逢坂の関。それを見つつ彼は今はその関を後にする。またここに来ることもあるかもと思いつつ。関を後にし何処かへと向かうのだった。彼の道に。
第十首 完
2008・12・8
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