暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十五話 ヴァレンシュタイン艦隊の憂鬱
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
るのだろう。しかし私に言わせれば、シミュレーションの結果に拘らない司令長官の方が不思議なのだ。

「中佐は私にシミュレーションに参加しろと言っているのですね」
「はい」
「私が出ても勝てるという保証はありませんよ」

司令長官が不機嫌そうに言ったが私は気にならない。司令長官の戦術家としての実力は良く分かっている。ヴァンフリートでは敵として戦い捕虜になった。イゼルローンでは同盟軍があっという間に壊滅するのを目の前で見たのだ。

司令長官がシミュレーションの結果に拘らないのは、自分の実力に自信が有るからかもしれない、あるいは兵站科を専攻した事が原因だろうか。

司令長官はしばらく私の顔を見ていたが、“後で検討会に参加します。それでいいですね”と言うと未決の文書を手に取り読み始めた。



帝国暦 487年11月 1日   オーディン 宇宙艦隊司令部 クラウス・ワルトハイム


ミュラー提督との戦術シミュレーションは完敗に終わった。昨日といい今日といい、全くいいところ無しだ。司令長官には勝敗に拘るなと言われた。それが正しい事も分かっている。しかしそれでも落ち込んでしまう自分が居る。

宇宙艦隊で最も弱い部隊。それが我々に付けられた渾名だ。皆半分以上冗談で言っているという事はわかっている。なんと言っても司令長官がシミュレーションに参加した事は無いのだ。

艦隊のメンバーは皆落ち込んだ表情をしている。唯一表情を変えていないのはキルヒアイス准将だけだ。所詮、ここではお客様のつもりなのだろう。本当の居場所は副司令長官のところというわけだ。

昨日の副司令長官とのシミュレーションでは、必死に表情を押さえようとしていた。負けた悔しさよりも副司令長官が勝った事への喜びを隠すためだろう。腹立たしいにも程がある。副司令長官も時折キルヒアイス准将に視線を送っていた。勝った、とでもいいたいのだろうか。いい加減にして欲しいものだ。

今日の戦術シミュレーションはクレメンツ提督が統裁官を務めた。見学者はワーレン提督とルッツ提督だ。二人は内乱が起きれば副司令長官の指揮の下、ミュラー提督と共に辺境へ赴く。ミュラー提督の戦術家の力量を確認しておこうというのだろう。

本隊からは誰も見学に来ない。つまり我々の戦術家の力量には関心が無い、そういうことだろう。情けない話だ。これから行なわれる検討会がなんとも気が重い。

検討会の行なわれる会議室に行くと中央にクレメンツ提督が座っていた。ミュラー艦隊の人間がクレメンツ提督の右手側に座り、我々が左手側に座る。ワーレン提督とルッツ提督は見学者用の席、ミュラー提督の後ろに用意された椅子に座っている。

全員が揃ったが、クレメンツ提督は検討会を始めようとしない。皆が訝しげな表情をクレメンツ提督に向ける
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ