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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十五話 ヴァレンシュタイン艦隊の憂鬱
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ィーアはクラインゲルト子爵家に嫁いだ。

キルヒアイスも同様だろう。アンネローゼの事を想ってもその想いが適う事は無い。だからこそあそこまで純粋に一途になれるのかもしれない。切ない話だ、哀れですらある。ラインハルトがキルヒアイスとアンネローゼの事に気付かなかったのも未熟というよりは無意識に身分に囚われたからだろう。

アンネローゼが自分のことを罪深い女だと言っているが、もしかすると彼女自身キルヒアイスの気持ちを重荷に感じていたのかもしれない。少なくとも自分がキルヒアイスの人生を変えてしまったことには責任を感じていた。

貴族と平民か、これから先どうなるのか……。内乱が起きれば門閥貴族は壊滅し平民や下級貴族が力を振るう時代が来る。帝国の統治下においては貴族、平民の権利に差はなくなる方向で動いていく。法の下での平等が実現されるのだ。しかし、人の意識に壁が無くなるのは何時になるのだろう。


帝国暦 487年11月 1日   オーディン 宇宙艦隊司令部 ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ


私の目の前で司令長官は決裁文書を見ている。より正確に言えば見ている振りをしている。もう三十分以上同じ文書を見続けているのだ。見ている振りをして他の事を考えているのに違いない。

大体表情が少し憂鬱そうに見える。書類を読んでいるのならもっと楽しそうにしているし、ぼんやりしているのなら気の抜けた表情をしている。今は内乱のことか、あるいは人事の事でも考えているのかもしれない。

考え事が終わったのは、それからさらに二十分程たってからだった。大きく溜息をつくと書類にサインをし既決の文書箱に入れる。それを待って話しかけた。

「閣下、少しよろしいですか」
司令長官は私を見ると軽く頷いた。先程までの憂鬱そうな表情は無い。穏やかで柔らかい表情を見せている。

「戦術シミュレーションの事ですが、このままでよろしいのですか?」
「……何か、有りますか?」
やはり気付いてはいないか。

「皆自信を無くしています。自分達の艦隊が宇宙艦隊で一番弱い艦隊だと」
「……」

「それに閣下は一度も戦術シミュレーションに参加しません。宇宙艦隊の中では司令長官は自信が無いから戦術シミュレーションをしないのだという風評が立っています。その事が余計に司令部の人間を落ち込ませています」
「……」

司令長官はうんざりしたような表情をしている。
「閣下の仰りたい事は分かっています。シミュレーションなのだから勝敗に拘る必要は無い、それよりも部隊の展開、連携等を確認しろ、そういう事でしょう。正しいと思います、皆も分かっているのです。それでも負けるという事が彼らを落ち込ませています」

司令長官はうんざりしたような表情を変えようとはしない。心底うんざりしてい
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