第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#13
DARK BLUE MOONX 〜Dead Man's Anthology〜
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を埋めた少女の脳裡にふと甦る、一つの追憶。
砂浜に轍 を引く自動二輪車の傍で、共に二人で見た光景。
目に映る全ては輝いて、聴こえる音はあくまで澄んで、
吸い込む空気すらこれまでに感じたコトがないほど爽やかに胸を充たした。
その所為で、まるで子供のように波打ち際で燥 いでしまい、
砂浜でソレを見ていたアイツに水をブッかけ、
そのまま互いが濡れるのも構わず夕焼けの中で戯れていた。
(……アイツが、いないから?)
少女の心中に浮かぶ、無口で、無愛想で、無感情で、
それでも、いつもいつも当たり前のように傍にいた、一人の青年。
ソレがいま自分の傍らにいないというだけで、
心の一番大事な部分を削り取られたかのような途轍もない喪失感を感じる。
今朝の、アイツの自分に対する態度。
そして、昨日からの思い出したくもない失態の数々。
アイツは、自分を見てくれなかった。
ホリィを救う、アイツにとって絶対負けられない戦いなのに。
それなのに自分はその一番最初で、アイツの足を引っ張ってしまった。
汚名を払拭する為に挑んだ戦いも、いとも容易く相手に制された。
挙げ句の果てにアラストールの身までも危険に晒して。
アイツはもう、足手まといの自分なんかには愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
(!!)
朧気に心中で浮かんだ思惑だったが、
そこで少女は全身を劈くような恐怖に愕然となる。
今までの幾多にも及ぶ紅世の徒との戦いの中、一度も恐怖に屈したコトのない
名にし負う強者、フレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手” が。
(イ、ヤ……)
震える口唇と共に、意図せずに零れ出る声無き声。
(そんなの……イヤ……!)
アイツがもう、二度と自分に振り向いてはくれない。
アイツがもう、二度と自分に優しく微笑みかけてはくれない。
明確に認識したその事実に、少女は張り裂けるように叫びそうになる。
(怖い、怖い、怖い……!)
死ぬコトは、怖くない。
今までの血に塗れた修羅の道の中、何度も何度も 『覚悟』 してきたから。
でも。
で、も。
“アイツに見捨てられ、自分の存在を必要とされなくなるのだけはイヤだ!”
「……ナ」
まるで信仰、否、渇仰にも等しき感情の奔流で沸き返る少女の胸元で静かに呼ぶ声。
「シャナ」
(!?)
一瞬アイツの声と、しかしそんなコトはある筈もなく
反射的にみつめた胸元のペンダント。
そこから、荘厳な響きを持った男の声が告げる。
「……封絶だ。たったいま北東の方角にて現れた。気づかなかったのか?」
咎めるような口調ではないが、事実意外そうな様相を以てアラストールは訊く。
「……ごめん……なさい……!」
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