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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十四話 居場所
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思わず嘆声を上げた俺にオフレッサーが笑いを含んだ声で話しかけてきた。
「どうだ、美味かろう。この店のシュラハトプラットは間違いなく帝国一だ。皇帝陛下といえどもこれ程の味は知るまい」

「確かに……」
美味い料理というのは有り難い物だ。それだけで会話を生んでくれる。
「俺はな、貴族とは名ばかりの貧しい家に生まれた。食うために軍人になったといって良い。幸いこの身体が有ったのでな、装甲擲弾兵になった」
「……」

思わず手が止まった。まじまじとオフレッサーを見る。オフレッサーは気にした様子もなくシュラハトプラットを食べている。装甲擲弾兵はオフレッサーにとって天職だった。二メートルに達する身長とその身体を覆う筋肉。他者の倍ほどの大きさを持つトマホークを軽々と操り、敵対するものを屠ってきた。同盟に居る頃はこの男とだけは戦いたくないと思ったものだ。

その流した血の量だけで装甲擲弾兵総監になったと言っていい。同盟軍からは「ミンチメーカー」と恐れられ忌み嫌われた。当時同盟の装甲擲弾兵が嫌ったのは味方で有るはずのローゼンリッターとヴィクトール・フォン・オフレッサーだ。

「この店のシュラハトプラットを食ったとき、世の中にはこれほどまでに美味い料理があるのかと驚いた。それ以来、出征前と出征後は必ずこの店によることにしている」
「宜しかったのですか、小官に教えて」

多少の皮肉を込めて言ったのだがオフレッサーは俺の問いに答えなかった。
「このシュラハトプラットを食べて戦場に出る、このシュラハトプラットを食べるために戦場から戻る、その繰り返しだ。人間など大したものではないな、いや、それとも大したことがないのは俺か……」
「……」

「もう直ぐ帝国を二分する内乱が起きる。卿は当然だがヴァレンシュタインに付く、そうだな」
「はい」

質問というよりは確認のような口調だった。緊張したのは俺だけのようだ。オフレッサーは俺に眼を向けることもなくシュラハトプラットを食べている。少し腹が立った、思い切って訊いてみた。
「閣下は如何なされますか?」

「俺はな、帝国が好きだ。俺を装甲擲弾兵総監、オフレッサー上級大将にしてくれた今の帝国がな。卿の主人が作ろうとしている帝国は俺の好きな帝国ではない」
「……」

「分かっているのだ。俺も下級貴族に生まれた。門閥貴族どもの鼻持ちならなさにはうんざりしている。このままでは帝国が立ち行かぬというのも分かる」
「……」

「それでも俺の居場所は此処しかない。新しい帝国では装甲擲弾兵総監、オフレッサー上級大将の居場所はあるまい。そこで必要とされるのは卿のような男だ」
「……」

オフレッサーはワインを一息に飲んだ。俺も釣られるようにグラスを空ける。酸味の強い白ワインだ。オフレッサーと俺のグ
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