第九章
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「当店に」
「うん、じゃあね」
「またね」
津田だけでなくチャーンも応えた。そのうえでだ。
二人はラターナが帰るのを見送った。その背中が闇の中に消えるのを最後まで見届けてからだ。津田はチャーンにこんなことを言ったのだった。
「いや、インドネシアの女の子って」
「いいでしょ」
「強いね、芯が」
「ああいう娘もいるんですよ」
「いいメイドさんになるよあの娘」
唸る様にしてだ。津田はこうも言った。
「いや、これからもっともっといい娘になるよ」
「言いますね、津田さんも」
「これでも女の子のことはわかるつもりだよ」
「遊んでいるが故にですね」
「如何にも。遊んでいるとね」
「こういうこともわかるんですね」
「遊ぶことも勉強なんだよ」
真の遊び人の言葉だ。遊ぶことはただ遊ぶだけではないのだ。そこにも学問があり人生があるのだ。こうしたことがわかるのも津田が真の遊び人だからだ。
その真の遊び人としてだ。津田は言うのだった。
「だから明日もね」
「あの娘指名するんですね」
「遊ぶよ、明日も」
楽しげに笑ってだ。津田は答えた。
「楽しくね」
「じゃあ私も」
「うん、行こう」
こう話してだ。そのうえでだった。
彼等は二人で言った。そうしてだった。
二人は実際に次の日もその店に帰った。しかしだ。
出迎えのメイド達の中にラターナがいなくてだ。それでだった。
津田は目を何度かしばたかせてからだ。こう店の男性スタッフに尋ねた。
「ラターナちゃんは?」
「あっ、今あの娘は指名を受けまして」
「えっ、指名受けたの」
「はい、あの席にいますけれど」
男性スタッフが手で指し示したその先の席にだ。彼女はいた。そしてだ。
その横には昨日のストーカーがいた。彼女と一緒にいてでれでれとしている。その彼と笑顔でいるラターナを見てだ。津田はやれやれといった顔でチャーンに言った。
「本当に侮れないね」
「ははは、そうですね」
「じゃあ今日は仕方ないからね」
「出られますか?」
「別の娘を指名するよ」
これが津田の返答だった。
「そうするよ」
「そういう津田さんもですね」
「何かな」
「侮れませんね、実に」
「そうかな」
「はい、侮れない遊び人ですね」
チャーンは屈託のない笑顔で隣にいる津田に言う。その飄々としながらも確かな芯を持っている彼にその笑顔を向けて。そうして言ったのである。
侮ると怖い 完
2012・4・26
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