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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百四十九話 マリーンドルフ伯の戦慄
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時にブラウンシュバイク公爵夫人、リッテンハイム侯爵夫人なのです。両家が帝国に弓引かぬという証が必要なのです」
「……」
「それにはお二方、御令嬢方がこのオーディンに留まる事が必要です。どうか、御理解いただきたく存じます」
リヒテンラーデ侯の声は二人の女性を落ち着かせる力があったようだ。少しの間をおいてブラウンシュバイク公爵夫人が問いかけてきた。
「私達の夫はそれほどまでに帝国にとって危険だと言うのですね?」
「……」
リヒテンラーデ侯もヴァレンシュタイン元帥も答えない。だが答えないこと自体が答えを表しているだろう。
「答えられませんか。では夫たちがこの危機を乗り越えられる可能性はどれほどあるのでしょう?」
「……」
「お姉さまの質問に答えなさい、無礼でしょう」
リッテンハイム侯爵夫人の叱責が飛んだ。ややあって、ヴァレンシュタイン元帥が答えた。
「正直分かりません」
「!」
「ただ……」
「ただ?」
先を促すように言葉を発したのはどちらの夫人だろう。それに答えるかのように元帥の言葉が流れる。
「出来る限り早く辺境へ赴く準備を整え出立する事です。早ければ早いほど貴族達の暴発から逃れる事が出来ます。遅くとも十一月の下旬には準備を整えておく必要があるでしょう」
「……」
十一月の下旬……。ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯も領地へ戻るには十日から半月程度はかかるに違いない。今から戻れば十一月の初旬には領地につく。残り約二十日程度の日数で準備を整えなければならない。
なるほど、十二月になれば貴族達は銀行からの借金の返済が二回目になる。そうなれば貴族達は耐え切れなくなって暴発する、ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯もそれに巻き込まれる、元帥はそう考えているのだろう。思った以上に厳しい状況のようだ。
ブラウンシュバイク公爵夫人、リッテンハイム侯爵夫人から解放されたのはそれからさらに三十分ほど経ってからだった。リヒテンラーデ侯もヴァレンシュタイン元帥もどこか疲れた顔をしている。
少し休んでから戻ろうという事になって、部屋の片隅に置かれていた椅子に座った。ちょうど良い機会だ、気になっていたことを訊いてみよう。
「御婦人方の相手は疲れますな……。ところでヴァレンシュタイン元帥、一つ聞きたい事があるのですが」
「何でしょう?」
「領地替えですが、何故あの案を出したのです? あの二人を暴発させたほうが討伐はやりやすかったと思うのですが」
ヴァレンシュタイン司令長官は困ったような表情を見せたまま答えない、それとも答えられないのだろうか? あの時司令長官はリヒテンラーデ侯の問いに答える形で領地替えの案を出した。この二人の力関係はやはりリヒテンラーデ侯が主導権を握って
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