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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十七話 余波(その3)
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レンシュタインのシミュレーションの成績だ。平凡と言って良い、良く言って中の上、そんなところだろう。皆が彼のシミュレーションの成績を知って首を傾げた……。
しかしシミュレーションの内容を調べるにつれて皆の顔が強張った。三百敗以上の敗戦の殆どが圧倒的なまでに戦力差が有る中での撤退戦、防御戦だったのだ。
“俺はこんな馬鹿げたシミュレーションは見たことが無い”
“卿は奴を馬鹿だと思うのか”
ビッテンフェルトとロイエンタールの会話だ。おそらく皆の気持ちを代弁していただろう。それ以上は誰も何も喋らずに解散した。
あのシミュレーションは一体何のためなのか……。生き残るため、ごく普通に考えればそうなる。だが本当にそれだけか……。隣を歩くクレメンツを見た。憂鬱そうな表情をしている。
彼が言った言葉を思い出す。第七次イゼルローン要塞攻防戦の前の事だった。シュターデン少将がヴァレンシュタインを軽視するかのような発言をした時の事だ。
“あれは戦争の基本は戦略と補給だと言っていた。戦略的優位を確立し万全の補給体制を整えて戦う、つまり勝てるだけの準備をしてから戦う……”
確認したのか、それを……。自らシミュレーションで三百敗する事でそれを確認したのではないだろうか。理論をシミュレーションで確認し第七次イゼルローン要塞攻防戦で実践した。戦略的に圧倒的な優位を確立し帝国軍を殲滅した……。
「どうしました、参謀長?」
クレメンツが訝しげな表情で私を見ている。何時の間にか考え込んでいたらしい。
「いや、なんでもない。……地球の事を考えていた」
余計な事は考えるな、今は地球制圧の事だけを考えろ。地球までは約二週間、地上制圧に五日かかったとしても約一ヶ月後にはオーディンに戻れるだろう。そしてその時には銀河はまた新たな局面を迎えているに違いない……。
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