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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十七話 余波(その3)
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「不安なのはもう一つ理由が有る。この件、ヴァレンシュタインが絡んでいる。嫌な予感がする、何か裏が有るんじゃないかと思うんだ。……卿はどう思う」
リューネブルクが俺に視線を向けた。瞳に不安の色が有る。怯えているのかもしれない、しかしそれを揶揄する気にはなれない。

リューネブルクは怯懦とは無縁な男だ。一戦士としても白兵戦指揮官としても十分な勇気と胆力を持っているし無謀でもない。装甲擲弾兵を指揮させれば帝国でも屈指の男だという事はヴァンフリート、イゼルローンで共に戦ったから分かっている。だがそんな男でもヴァレンシュタインを恐れている……。

今回の一件、イゼルローンでの通信を思い出した。ルビンスキーを追い込んでいくヴァレンシュタインの姿は見ていて寒気がした。俺もルビンスキー同様ヴァレンシュタインの前にただ震えていた。彼の言葉に打ちのめされないように立っているのが精一杯だった。今でも夢に見るときが有る、起きた時は冷たい汗をびっしょりとかいている……。

「正直不安は有る。しかしフェザーンと地球教が繋がっているのは事実だろう。そして帝国と反乱軍の共倒れを狙った事も……。となれば地球教そのものは潰さなければならない。そのためには帝国、反乱軍の協力が必要だ」
リューネブルクが俺の言葉を反芻するかのように頷いている。

「では裏は無いと?」
「いや、相手が相手だ、油断は出来ない。ただ現状ではヴァレンシュタインの敷いたレールに乗らざるを得ないのも事実だ」
俺の言葉にリューネブルクが溜息を吐いた。俺も溜息を吐く、非常に不本意だ。また奴に主導権を取られている。

「問題が有るとすれば地球教を潰した後、反乱軍と協力した後か」
「おそらく……、フェザーンを利用して何らかの罠をしかけてくるだろうな」
リューネブルクがまた溜息を吐いた。

「厄介な相手だ。……ミューゼル、笑うなよ。俺は奴が怖い、どうしようもなくな」
「私もだ」
顔を見合わせて互いに小さく笑った。大丈夫だ、まだ笑える。

リューネブルクが笑いを収めた。
「気になるのは奴がどうやって地球教の事を知ったのかだ。それに例のルビンスキーの通信の内容……。卿はどう思う」
「……」

どう答えるかと悩んでいると俺の自室の前に来た。寄って行くかとリューネブルクに聞くと自室に戻ると答えが返ってきた。
「では後で合同の打ち合わせをしよう」
「一時間後に会議室で」
「良いだろう、では」
「では」

結局それまでだった。質問に答えられなかったがリューネブルクも答えは求めていなかったのかもしれない。自分の部屋に戻りケスラー、クレメンツを呼ぶ。三分と待たずに二人がやってきた。おそらくは俺が呼び出された事を知り、部屋で待機していたのだろう。途中でリューネブルクと会ったかもしれない。

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