Side Story
少女怪盗と仮面の神父 26
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たいらしい。
「職務の邪魔をするのは心苦しいのですが。ミートリッテさん。少しの間、耳を塞いでいてください」
「へ? あ、はい」
咄嗟に両耳を手で覆い。
ふと、大人しく言うことを聞いている自分に眉を寄せた。
アーレストは裏切り者なのに、言いなりになってどうする。
反抗心で手を下ろそうとして……動かない。
(え? あれ!?)
指先が痺れ、関節が硬くなり。
体全体が石になったかと思うほど冷たく、重い。
何時間も同じ姿勢を取り続けた後の硬直に似てる。
(な、なに!? 急になん……)
カン、カラン! と乾いた音が響いた。
焦るミートリッテの周りで人影が輪郭を失い、草木の闇と一体化する。
全員、地面に膝を突いたのだろうか。
「アー……レスト、様……!」
苦しげな男声を置き去りに、神父は……走った。
抱えられているミートリッテの顔に体に、凄まじい風圧が押し寄せる。
(ぅっわ……速っ! 神父って、走れる生物なの!?)
器用に枝や葉をすり抜け、木々の隙間を縫い、しなやかな体躯を持つ大型肉食獣を連想させる疾さで、傾斜を苦もなく駆け上がっていく。
(……ん? 傾斜?)
三人を遠く離れ、腕が自由を取り戻した頃。
鼻と耳が、流れる水の気配を感知した。
そして
「…………────っ!」
黒闇に慣れた視界一面を、降り注ぐ白光が塗り替える。
光と闇が物質を形作り。
開けた眺望に、満天の星と大森林を囲む山々の黒い峰を顕現させた。
「……が……」
「が?」
ぽかんと辺りを見回したミートリッテは、呼吸の乱れもなく立ち止まった怪物の腕の中で、次第にぷるぷると震え出し……
吼えた。
「崖ぇえぇええええええええええ──────っっ!?」
「え? あ。」
空を穿つ大絶叫に驚いた神父の胸を突き飛ばし。
植物が絶えた剥き出しの地面へ落下。
「痛っ!」と呻きながらも、数十歩先の崩れた先端に這い寄り。
ガバッと身を乗り出した。
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