108話 炎
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を落ち着ける……と。確かに肌にピリピリするほど発せられていたトウカの闘争心が鎮められていった。そしてそのままメディさんが手を引くと、すんなりトウカは結界の中に入れた。
……聖なる結界に勘違いされるレベルの闘争心ってなんだろう。僕達も似たようなものだったろうに。相変わらず脱色した銀色の髪の毛が魔力を弾いてるようにぱちぱち音を立てているからなんだか淡く光ってるみたいだ。
……あれ、さっきまで紫色だったトウカの目がまた、緑色……。姫様と並んでエメラルド色が四つだ。
「……ありがとうございます」
「いいえ。でも折角来てくれたのに……」
「ここに来たのは、グラッドさんがメディさんを心配したからです。……結果はご覧の通りですけど。街で病人を診たらすぐ来るって言ってました」
「……あの子が?」
……何も知らずにグラッドさんがここに来たら危ないなんてものじゃないな。オークニスでの様子じゃ来るだろうし……。あの数相手に、グラッドさんの戦闘能力がどの程度かなんてわからないけど、さっきの様子じゃあまり戦えないみたいだし。心配なんてものじゃないよね、メディさん……。
「そう。じゃあ袋は渡してくれたのね」
「はい、それは勿論」
「あぁ、ありがとう」
メディさんは静かに祠の入口を見つめていた。さっきまでひっきりなしに狼どもが凝りもせずに結界に弾かれていたのに今は怖いぐらい静かだった。
火事はとうとうあの温かい家を包み込んでしまったらしい。不吉な真っ赤な光がここからでも見えるんだ。あの日の暖炉の火はホッとするぐらい綺麗だったのに、今見える火の色はゼシカのメラゾーマよりも恐ろしい。
焦げ臭い匂いが土と冷たい石の清廉な空気の匂いに混ざってかすかに伝わってきた。でも、ここからじゃ何も出来ない。行ったってまたあの大群を相手にしないといけないけど、ゼシカやククールが万端だろうが、ヤンガスや僕の調子が良かろうが、我らが先鋒トウカがぎりぎりと大剣を握りしめていようが危険にわざわざ飛び込むなんてことは出来ないから。
「……」
静かだ。なにも、変わらない。向こうから聞こえる音が聞こえないんだ。さっきまで獣の唸り声が煩かったのに、嘘のようだ。
「……レティスは大空を舞うもの。この世に邪悪の現れし時はレティスに助力を求めることだ……今は流石に関係ない、か……」
誰も何も言えない時、トウカは並んだ石碑の文字を読み上げる。それしかやれることがなかったんだろうけど……確かに伝承らしいその言葉、どう考えても空を飛ぶ存在に力を借りるなんて荒唐無稽なことないよね。今まさに邪悪認定されてた人間が読んでるのは妙だけど。
あとは読み上げもせずに真顔で読み進めていたトウカ。そして最後の文字まで読んだのか小さく息を吐き出す。
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