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約1つのラベルと心臓
第n+4話 両手が半生恥は一時
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ばーもをあやしながら早歩きで進みだした。
「うっ、ううっ、うっ、」
「はい、ばも君これは食べ物じゃないからねぇ。ばも君は衣食足りてる正統派な龍だから、金を食べるのはやめようねぇ」
(龍の子も何でも口に入れるんだな)
「あう、ばう、うう」
「ばも君ね、私の指はカモシカのような指だけど、食べ物じゃないからねぇ」
(おい食われてるぞ大丈夫か)
 そんなこんなありながらも、さかばーもを先頭に道を進むと、さかばーもが建物の前でピタリと止まり、「ぐぷ」とそれを指差した。
「ん?知ってんのか?」
「ばも君のお父さんが仕事してるのよ」
 その建物はテントだった。占いの館を10倍ぐらいずつ拡大したような感じだ。
「ばも君のお父さん、サーカスの団長兼猛獣使い兼猛獣なのよ。自制心の強い方だそうよ」
「猛獣使いってそういうことじゃねぇだろ」
「人は誰しも誰の指図も受けずに猛獣になるものなのよ」
「がっぴー!」
 さかばーもが突然叫ぶと、テントのカーテンがサッと開いた。
「おぉ!その声はまさか、息子のさかばーもではないか」
「がぷぴぱがー」
 テントの中から篭もるような大きな生物の声がした。
「こんにちはー」
「こ、こんにちは」
 取り敢えず美都子に乗じて、夏雄も挨拶をしておく。
「やぁ、ここまで来るの疲れたろう。狭いとこだがここでゆっくり……」
 カーテンの隙間から姿を表したのは、さかばーもより遥かに大きな龍だった。
「……って誰だ?」
「あれ?私の事聞いてませんか?さかばーも君を預かって欲しいと頼まれていたんです」
「ん?そうかすまない。ちょっと待っててくれ。家内に間違いが無いか確認してくる」
 そう言って龍はさかばーもを抱えたままテントの中に引っ込んでいってしまった。
「うーん、ばも君のお母さんったら、このこと言い忘れてたのかしら?」
「は?」
「良かったわね。お父さんが紳士的で」
 美都子は足で丸を書いた。
「そうだな」
「彼の気性が激しかったら、今頃私達は無実の罪でけん玉みたいになってたところよ」
「要はとんでもないってことだな」
「結婚するならやっぱり、夫婦生活における3つの報連相をもっと大事にして欲しいわね」
「なんで3つあるんだよ」
「1つ目はほうれん草袋」
「スーパーにでも行ってろよ」


 それから少しして誤解の解けた2人はお礼とお詫びにとサーカスを楽しんで、夏雄が感想を言おうとしたら途中で家に引き戻された。
 取り敢えず習慣となったのでいつもの付箋を見る。
『西に月歩の子供あれば 行ってあんこを食わせてやり』
「前も思ったけど、なんであんこだけなんだよ」
 そして西ではなく東である。
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