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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百四十六話 ギルベルト・ファルマー
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誇り、名誉、特権、それらが貴族達を蝕んでいるのかもしれない。帝国初期には貴族にも人の上に立つに相応しい人物がいたのだろう。いやそういう人間だけが貴族に選ばれたのかもしれない。
だが五百年の間に能力有るものは減少し、貴族としての誇り、名誉、特権だけが残った。真に能力のあるものから見れば意味の無い傲慢さにしか見えないだろう。
もとフレーゲル男爵だった人物の言葉が続く。
「今の私はギルベルト・ファルマーとして自分の力で得たものだ。だが、それを得るには一度死なねばならなかった。その意味では私はヴァレンシュタインには感謝している」
「……」
「あのままでは私は愚かな門閥貴族として生き、死んだだろう。それこそが貴族としての一生だと思い、疑問を持つ事も無く生を終えたに違いない。特権というものは人を腐らせるものだな。つくづくそう思う」
特権というものは人を腐らせる……。その言葉を今一番重く感じているのはブラウンシュバイク公だろう。
「フェルナー、伯父上はブラウンシュバイク公としての誇りを捨てる事は出来んか」
スクリーンに映るギルベルト・ファルマーは何処か哀しそうな表情だった。
「難しいことであるのは分かっている。だがこのままでは伯父上には破滅が待っているぞ」
「仰る事は分かります。しかし、もしブラウンシュバイク公が政府に恭順すれば、貴族達は公を暗殺し、エリザベート様を旗頭として仰ぎ反乱を起すでしょう。公はそれを恐れています」
「エリザベートか」
「はい、エリザベート様です」
公がもっとも恐れているのがそれだ。エリザベートは皇帝の孫でもある。何処かの馬鹿者が新王朝成立などと考えかねない。
「厄介な事だな……。いっそエリザベートと伯母上を陛下にお返ししてはどうだ」
「? 返すとはどういうことでしょう?」
俺の腑に落ちない顔が可笑しかったのだろう。ギルベルト・ファルマーは笑いながら答えた。
「そのままの意味だ。陛下にお返ししてはどうかと言っている」
「……」
「まだ分からないか? 陛下の下にお返しすれば、伯父上を殺しても旗頭に担ぎ上げる人物がいないだろう。伯父上の身は安全だ。政府に恭順するかどうかはともかく時間は稼げる」
なるほど、確かにそうだ。これまでフロイラインをゴールデンバウム王朝の皇位継承者としてばかり見ていた。万一の場合の切り札だと。そのため返すなどという事には気付かなかった。どうやら俺も特権に毒されていたらしい。
「しかし、なんと言ってお返しします? それなりの理由が要りますが」
「そうだな、陛下を説得させるというのはどうだ、悪くないと思うが?」
俺は思わず笑い出してしまった。確かにそれなら誰も反対できない。
「惜しいですな、本当に惜しい。今の貴方なら……」
「止せ、
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