十話:夏と雨
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振り返ることなく駆け出していく。
ぐだ男は思う。今の俺は―――輝いていると。
「待ってください、ぐだ男君!」
『ヘバァ!?』
「ご、ごめんなさい」
しかし、そんな輝きは続くことなくジャンヌに腕を掴まれた反動でこけ、アスファルトと熱いキスを交わす。
「大丈夫ですか。私が急に掴んだせいで……」
『ほ、星が見える、スター』
「ぐだ男君!?」
頭を打った衝撃で目の前に星がクルクルと回る状況になるが何とか立ち上がる。
だが、ぐだ男は自分が何故止められたのか分からず困惑している。
そこへ、一気に雨が降り出してくる。
「すみません。と、とにかく一緒に傘に入ってください」
『でも、狭いよ』
「全身ずぶ濡れになるよりはマシです。では…えい!」
可愛らしい掛け声と共にぐだ男の隣ピッタリとくっついてくるジャンヌ。
世間でいう相合傘という状況にぐだ男の頭は軽い混乱状態に陥る。
「後はぐだ男君が私を家まで送り届けてくれれば完璧です」
『う、うん』
緊張を隠すことが全くできずに顔を真っ赤にして何度も顔を上下させるぐだ男。
そんな彼の様子にジャンヌは笑うかと思ったが彼女もまた恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「そんなに緊張しないでください。あなたにそんな顔をされると私も……緊張しちゃいます」
消えるような小さな声で呟かれた彼女の言葉に内心身悶えしながらぐだ男は歩き出す。
ザーザーと降りしきる雨の音がうるさいが彼にはそんなものなど聞こえてはいなかった。
ただ、触れ合う彼女の温もりだけに神経が異常に反応し彼女の横顔を見ることしかできない。
「……あの、肩がはみ出ていますよ?」
『俺が全部入るとジャンヌが濡れちゃうでしょ』
「私は気にしないでください。悪いのは傘を持ってこなかった私ですから」
『……俺も男だからさ。女の子の前ではカッコつけたいんだ』
気を遣うジャンヌから傘を奪い取りジャンヌ一人がすっぽりと収まるようなポジションをとる。
そして、照れ臭そうに笑いながら彼は濡れた頬を掻くのだった。
「もう…そういう言い方は……卑怯ですよ」
若干潤んだ瞳で目を逸らし大人しくするジャンヌ。彼女の見た目に変化はない。
しかしながら、彼女の心臓はドクドクと普段よりも大きな音を立て続ける。
それからはどちらも言葉を交わすことはなく、ただお互いの距離だけを意識して家路に着いていく。
「……あ、ここが私の家です」
『うん。じゃあ、ここまでだね』
ジャンヌを送ったことに満足し彼女の家から歩き去っていくぐだ男。
だが、次第に強くなっていた雨は今やゲリラ豪雨並みの雨を降らせており、その足を物理的にも精神的にも重くさせた。
「あの、ぐだ男
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