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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百四十五話 勅令の波紋
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エーリッヒの顔には心から彼らの安否を気遣う表情があった。だが本当に一番危ないのは自分で言ったようにエーリッヒ自身だろう。

「自分に狙いが集中するように、あえて憎まれ役を買って出たのか? 卿の悪い癖だ、何でも背負い込もうとする」
「そんなつもりは無かったんだけどね。気がついたらああなっていたよ」

困ったような表情で話すエーリッヒに思わず苦笑が出た。ケスラー提督が言っていたがエーリッヒは俺が皇帝の闇の左手だと知っても少しも変わる事なく接してくれる。彼にとって俺は士官学校時代からの友人なのだろう。得がたい友だ。

「ところで、惑星カストロプの方は大丈夫なのか?」
「準備は出来ている。オイゲン・リヒター、カール・ブラッケが上手くやるだろう」
「そうか……。貴族達も追い込まれるな」

惑星カストロプはマクシミリアン・フォン・カストロプの反乱後、帝国政府の直轄領になっている。オーディンに隣接するこのカストロプでは、本来なら来年四月から行なわれる改革を前倒しして行なわれることが決まっている。具体的には農奴解放と農民金庫の創設、間接税の引き下げだ。

オーディンの直ぐ傍で改革が先行して行なわれる。貴族達に与える衝撃は小さくないだろう。彼らは個人ではエーリッヒに対抗できない、そうなれば有力者に付く事で対抗勢力を作ろうとするはずだ。

対抗勢力が大きくなればなるほど強硬論が力を増すだろう。自重論などは唱えるだけで裏切り者扱いされるに違いない。

「追い込まれた彼らが何を考えるか、大体想像はつく。皇帝陛下は奸臣に騙されている。君側の奸を除き、ルドルフ大帝の定めた国是を守る。それこそが帝国の藩屏である自分たち貴族の崇高な義務である。そんなところかな、良くある話だね」

エーリッヒは可笑しそうに笑いながら話した。
「君側の奸か、煽る人間もいるだろうな」
俺の言葉にエーリッヒは “そうだね” と頷きながら答えた。

煽る人間か……。フェザーン、社会秩序維持局、オーベルシュタイン、そしてエーリッヒ自身も貴族達を暴発させるため煽るだろう。アントン、卿は彼らを抑えきれるかな? ブラウンシュバイク公を守れるか。

そして俺はエーリッヒを守りきれるだろうか……。貴族達とエーリッヒの戦いは先ずは俺とアントンの戦いになるだろう……。



帝国暦 487年7月26日
帝国軍宇宙艦隊司令長官エーリッヒ・ヴァレンシュタイン上級大将、五個艦隊を率いマクシミリアン・フォン・カストロプの反乱鎮圧に向かう。

帝国暦487年 7月30日
自由惑星同盟軍、帝国内の混乱に付け込み九個艦隊をもって帝国領への侵攻を開始。

帝国暦 487年 8月 3日
反逆者マクシミリアン・フォン・カストロプ、降伏。帝国軍、惑星カストロプの反乱を鎮圧。


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