もしもトウカが剣士さんじゃなかったら3
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魔物の血や体液の臭いがぷんぷんする。目の前の狂ったお方のグローブからは赤い液体とも固体ともつかないものが滴り落ち、不自然なほど明るい笑顔がそこにある。
弱いとか、頼りないとか、そんなのは狂気が目覚める前のただの幻想だったんだ。もしかしたら、僕が彼を城で見たことなかったのも狂気を振り撒かないためだったのかも、しれない。それならなんて英断なんだろう。味方にその牙を剥かないのが奇跡に思えるぐらい、彼は恐ろしく狂っていた。
その戦いぶりは鬼と言っても間違いない。残虐さを極めた子供のような無邪気は、凄惨な光景を次々と生み出す。死ぬまで殴る、と言えば分かるだろうか。自分の拳がどうなろうと殴り続ける、蹴り続ける、踏み続ける姿は魔物より遥かに恐ろしい。なのに、笑顔なのだから。
飛び散る血にきゃっきゃっと、喜んで笑い、その肉を殴る手応えに満足げで、殺した時は恍惚だった。その癖僕の持つ剣には憎悪が向いている。僕ではなく剣だったからさっさとブーメランに持ち替えることによってそれは回避できたけれど。剣の方が便利な時でも怖いからやめた。
「案外、スライムやザバンみたいに言葉を喋る魔物もいるんだね」
「そうですね」
ぷるぷる震えるスライムを抱き抱えて楽しそうだった様子を思い出す。最初は怯えていたスライムもやはり人間ではなく本質は魔物、すぐに彼に懐いていた。強者に惹かれる……本能の生物。ぷるぷる震えながらスライムも彼も笑う。狂った空間だった。
確かに何もしてこないならスライムは可愛らしい見た目をしていると思うけれど、多分彼の楽しそうな様子はそういう感情ではなく攻撃してこない珍しさからの気まぐれなんじゃないだろうか。彼なら笑いながら握り潰しても僕は何も、驚かないのに。
「ボク、足手まといじゃない?」
あと少しで洞窟から出られる、そんな時だった。リレミトの魔力をホイミで使い尽くしてしまったので歩いて帰り、あのスライムの熱烈な見送りを受け、魔物を行きと同じく蹴散らしつつの言葉だった。
「いいえ」
足手まといなものか。世間知らずで箱入りで、多分同年代と話したこともないであろう彼には嘘をついたってバレないと思う。でもその嘘はつけなかった。
たとえ、僕の役割も居場所も取られてしまうと今も心が悲鳴をあげていても。兵士として陛下も姫もお守りしなくちゃいけないのに、その役割を奪われてしまいそうでも、……彼に逆らってはならないだろう。地位としても、実力としても。個人的にあの狂気を向けられたくないだけにせよ。
「そう、良かった!」
無邪気かつ太陽にまで見える眩い笑顔に、愛想笑いしか返せなくても。
なんとなく、彼か僕のどちらかが違う道を歩んでいたら仲良くなれたのかもしれないな、なんても考える。仲良くなりた
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