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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 25
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うけど……)

 国王陛下に忠誠を誓い。
 女神アリアの加護を願い。
 我らは剣を持ち、剣となって、母国の秩序を守り抜こう。
 では、秩序とは何か。
 すべての民は労働によって実りを捧げる。
 あらゆる技は、あらゆる術となる。

 故に法は人を定め、道を護り、形を示す。
 さあ、剣よ


『お前が守りたいものは、なんだ?』


「え」


『人の世の(ことわり)を認めろ。人間は所詮、人間以上にも人間以下にもなれん』


「だ、誰!?」
「どうしました?」
「声! 女の人みたいな声が!」

 慌てて首を回すミートリッテ。
 アーレストは数秒沈黙し……

「…………まだ、どなたもいらしてませんが?」

 不思議そうに瞬く。

「で、でも! すっごく偉そうな言葉遣いがはっきり聴こえってぇえっ!?」

 ビシッ! と、何かが額に飛んできた。
 腹部に転がり落ちたそれを手に取ってみると。
 親指の爪ほどの、丸っこい木の実だった。
 アーレストが、興味深げにミートリッテの手元を覗く。

「……鳥が落としてしまったのでしょうか?」
「鳥って、夜に木の実を採取したりするんですかね!? あと、上じゃなくて正面から飛んできましたよ!? そこはかとなく悪意を感じるんですけど!」

 地面に放り投げてやろうかと、腕を振り上げて……やめた。
 暗くて判別しにくいが、皮膚で感じる質と形状は、おそらく団栗(どんぐり)だ。
 火を通せば立派な食料になる。
 捨てるなんて勿体ないじゃないか。
 態度では憤慨しつつも、指輪と同じポケットにいそいそとしまう。

「暗い中で動く貴女の額を狙い撃ちできる人間がいるとは思えませんが……ああ。ですが、どうやら彼らは間に合ったようです」
「へ?」
「ほら。貴女にも聴こえると思いますよ」

 アーレストに促されて呼吸を抑え、慎重に音を拾う。

 遠く……ずっと遠くで、風が走っていた。



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