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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百四十一話 困惑
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利も私欲も無いのだ、夢としか言いようが無い。あるいは志だろうか……。

「どうです、ボルテック弁務官。新帝国の閣僚として新しい世界を作ってみませんか。フェザーンの自治領主などよりずっとやりがいのある仕事だと思いますよ。そしてあなたなら出来る仕事です」
「……」

困った男だ、この男は危険過ぎる。人を酔わせる夢を持っている。その夢のために何人もの男が命を賭けるだろう。危険な美しく眩しい夢。

フェザーンの自治領主と新帝国の閣僚……。権限、影響力、そして仕事に対する満足感、おそらくどれをとっても新帝国の閣僚の地位のほうが上だろう……。フェザーンの自治領主など、所詮は帝国と同盟の間で動く陰謀家に過ぎない、両国からも決して尊敬される事は無い……。

「元帥閣下、内乱が始まっていないうちから、私のスカウトですか、いささか気が早すぎるような気もしますが?」

出来るだけ冗談めかして言ってみた。情けない話だがそれくらいしか対抗する手が思い浮かばなかった。真面目に答えれば何処かで心の乱れを知られてしまうだろう。

ヴァレンシュタイン元帥は俺の冷やかしのような発言にも不快感を示さなかった。むしろ可笑しそうに笑いながら話しかけてきた。
「そうですね。確かに気が早いかもしれませんね」

妙な事になった。二人で可笑しそうに笑っている。笑うべき所ではないはずなのだが……、いや笑うしかないということだろうか。全く困った男だ。ヴァレンシュタインは笑いを収めると真面目な表情で切り出した。

「ですが、私は貴方に真剣に考えてもらいたいと思っているのですよ。私がこの帝国をどのような方向に進めていこうとしているのか、内乱を通して見て欲しいのです」
「……」

「私は助ける価値が有る人間なのか、無い人間なのか、私の目指す未来が人類社会にとって何を意味するのか、貴方の目で判断して欲しいのです」
「……私に判断しろと仰るのですか? 私は元帥閣下を暗殺するかもしれませんが?」

「弁務官だけではありませんよ、私を殺したがっているのは。もし私が殺されるようであれば、それは私に力が無かった、夢物語に過ぎなかった、そういうことなのでしょう」

ヴァレンシュタイン元帥は苦笑しながら話し続けた。困った男だ、何度目だろう、そう思うのは……。俺はフェザーンのルビンスキーより、目の前のこの男を機会があれば暗殺しろと言われている。その事は当然ヴァレンシュタイン元帥も分かっているだろう。

フェザーンは今不安定な状況にある。イゼルローン要塞陥落後から始まった帝国による揺さぶりの所為でこれまで磐石と思われたルビンスキーの基盤に亀裂が入ったのだ。

五年前、前自治領主ワレンコフの事故死の後、大方の予想を裏切って後継者争いを制したルビンスキーが第五代目の自治領主になった
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