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真田十勇士
巻ノ五十三 九州のことその一

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                 巻ノ五十三  九州のこと
 幸村は上田に戻ると彼の屋敷に入り妻との暮らしに戻った。だが兄がいない間は彼が兄の分まで働いた。
 政も見ているがだ、彼は昼に十勇士達と共に飯を食いつつこんなことを言った。
「どうも拙者はな」
「政はですか」
「どうにもですか」
「殿にとっては」
「うむ、政は父上や兄上に比べてな」
 どうしてもというのだ。
「落ちるな」
「そうでしょうか」
「殿も励んでおられますが」
「よい政かと」
「民のことを考え」
「善政と思いますが」
「いや、善政もな」
 それもというのだ。
「やはり父上、兄上の方がじゃ」
「優れていると」
「そう言われますか」
「その様に思われていますか」
「実にな、やはり拙者は政は落ちる」
 昌幸や信之と比べてというのだ。
「政に関してはな」
「人には得手不得手がありますが」
「殿は政はですか」
「今一つだと」
「ご自身では言われますか」
「うむ、拙者は上田の全てを治められるかというと」
 それはというのだ。
「そこまでもいかぬ」
「ですか、では」
「上田は若殿が第一となり治められますか」
「では殿はこのままですか」
「真田家において」
「うむ、このままでいたい」
 次男としてというのだ、真田家の。
「これ以上は求めぬ」
「石高もですか」
「これ充分と、ですか」
「言われますか」
「その様に」
「御主達がより禄が欲しいならな」
 十勇士達が言いたいことはというと。
「拙者から父上に頼むがな」
「いや、それはです」
「我等も今のままで充分です」
「禄はこれ以上はいりませぬ」
「むしろ過ぎる位です」
 十勇士達もこう言うのだった。
「ですから我等もです」
「このままで充分です」
「殿と共にいるのならです」
「それでいいです」
「そうか、そう言うのならな」
 彼等の言葉を受けてだ、幸村はあらためて言った。今度言った言葉は。
「よいがな、とにかく政はな」
「殿は戦程にはですか」
「得手ではないと」
「ご自身では言われるのですな」
「そうじゃ、どうもそう感じる」
 どうにもという口調での言葉だった。
「やはりな」
「では」
「やはり殿は兵法ですか」
「そちらに生きられますか」
「それがよいな、政よりもな」
 むしろというのだ。
「拙者はそちらじゃ」
「では、ですな」
「鍛錬にもですな」
「これからも励まれる」
「そうされますな」
「そのつもりじゃ、今日の政は終わったからな」
 それでというのだ。
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