第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
夜叉丸
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すり傷ですよと我愛羅を安心させるかのように笑った。更に罪悪感にかられ、我愛羅は問いかける。
――傷って……痛いの?――
全く怪我をしたことのない我愛羅は、傷というものがどういうものかについては余り知らなかった。ただ大怪我をしたカンクロウが泣きながらテマリに手を引かれていた時のことを覚えている。赤い液体や透明の汁が傷口から溢れ出ていて、ぐちゃぐちゃになっていた。痛そうだな、と思った――心が痛む以外に痛覚を感じたことのない我愛羅にとっては痛いということもまた他人事ではあったが。
――まあ少しは。でも直ぐに治りますよ――
夜叉丸は優しい。それでも、いやそれだからこそ、我愛羅は夜叉丸を傷つけた罪悪感に苛まれた。ねえ夜叉丸、発された音に夜叉丸が小首を傾げた。なんですかという簡単な言葉の羅列ですら温かい。
――痛いって何なの?――
夜叉丸は言葉を捜した。辛いとき悲しいとき。我慢できないほどの強い感情を持っているとき。様々な感情を持ち出して形容してみても言葉は見つからず、結局得られた結論というのはあまりよい状態ではないということだけに過ぎなかった。
――夜叉丸は僕のこと……嫌い?――
問いかけた声は怯えていた。答えをもらうのが怖かった。夜叉丸の体に巻かれた包帯が痛々しかった。自分の包帯に向けられる躊躇いがちな視線に、そのことに罪悪感を感じていたのだと知った夜叉丸は笑った。
――人は傷つけたり、傷つけられたりして生きていくものです。でも人はそう簡単には、嫌いになれないものなんです――
嫌いじゃないよ大好きだよなんて言葉よりも、夜叉丸の言葉は温かく、すとんと心の中に落ちた。ありがとう夜叉丸、我愛羅は言った。
――僕、痛いってことが少しわかった気がするよ――
+
何もわかってなかったんだと我愛羅は今になって思う。あの時夜叉丸は、我愛羅を守るその砂を、彼の姉――つまり我愛羅の母親の、我愛羅を守り続けたいと思う意志の表れだと表現したことさえ、今はくだらなく思えてくる。
+
ねえ夜叉丸、お願いがあるんだ。
夜の砂隠れの里を我愛羅は走っていた。なんですか我愛羅さまと答える夜叉丸の調子はいつもどおり優しい。傷薬が欲しいんだと我愛羅は言った。あげようと思ったのだ、自分が昼間傷つけた子供たちに。
――昼間はごめんね。これ、傷薬……――
――帰れよ! 化け物――
しかし子供から帰ってきた声は鋭く我愛羅の心を刺した。傷つけてしまったのは自分が悪いと自覚していても、ここまで手ひどく拒絶されるとは、思っていなかった。言葉よりも、あの憎しみの篭った瞳に傷つけられた。
町で出会った酔っ払いが、我愛羅の姿を見て目を見開いた。恐怖に満ちた瞳が、あの子供の目と重なる。なんでなんでなんで、理不尽な重いばかりが渦巻く
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