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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十七話 敗戦の爪跡
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で撤退命令を出したグリーンヒル総参謀長が誤っていたとは思えない。誤っていたのは無理な進撃をしたドーソン総司令官とフォーク作戦参謀だろう。そのつけを生き残ったヤンたちに背負わせるのは俺もおかしいと思う。

黙り込んでいるヤンを見ていると思わず溜息が出た。その溜息がきっかけになったのだろうか、ヤンが口を開いた。
「そうじゃないんだ。同盟が敗北したのは間違いなく私の所為なんだ」

苦しそうな搾り出すような口調だった。
「ヤン、自分を責めるのは止せ。お前の悪い癖だ。あれはどうしようもなかったんだ」
「そうですよ、ヤン先輩。ラップ先輩の言うとおりです」

ラップ、アッテンボローがどこか切なそうな表情でヤンに声をかける。
「違うんだ、ラップ、アッテンボロー。今回の敗戦はイゼルローンで勝ちきれなかった私の所為なんだ」
「?」

イゼルローンで勝ちきれなかった? どういうことだ? 思わずラップ、アッテンボローの顔を見たが、彼らも不思議そうな顔をしている。ローエングラム伯を生きたまま帰してしまったことか? しかし、それが何故今回の敗戦に繋がるのだ?

「どういうことだ、ヤン。イゼルローンが何故関係する? 大体あれは大勝利だろう、勝ちきれないとは何のことだ?」
俺の質問にヤンは少しずつ答え始めた。

「今回のシャンタウ星域の会戦もそうですが、帝国は過去二回、ヴァレンシュタイン元帥の力で救われています」
ヤンはイゼルローンの事ではなく別のことを話し始めた。過去二回か……。ヤン、一体何を言いたい。

「一度は、フリードリヒ四世が重態になったときです。あの時帝国は内乱に突入してもおかしくありませんでしたが、ヴァレンシュタイン元帥の力で内乱を回避しました」

憶えている。あの当時ヴァレンシュタイン元帥が戦場に居ない事に注目していたのは一部の人間だけだったろう。ミュッケンベルガー元帥が国内安定のために彼をあえてオーディンに置いた。今では誰もが知る事実だが当時はヤンを含め一部の人間だけがその事を重視していた。

「もう一度は第三次ティアマト会戦です。あの戦いでミュッケンベルガー元帥は戦闘指揮が執れない状態になりました。本当なら帝国軍は混乱し大敗北を喫してもおかしくなかった……」
「……」

「しかし、現実には帝国軍は混乱せず勝利を収めました。ヴァレンシュタイン元帥が集めた男たちがそれを防いだのです……。彼は常に帝国の危機を防いできました。まるでそのためだけに帝国に生まれてきたかのようにです」

帝国の危機を防いできた……。確かにシャンタウ星域の会戦を入れれば三度帝国を救った事になる。普通なら有り得ないだろう。帝国の危機を防ぐために生まれてきた、ヤンがそう言いたくなるのも理解できる。

長く喋ったので喉が渇いたのだろうか、ヤンは
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